椿本力三郎

パスト ライブス/再会の椿本力三郎のレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.7
SNS時代にどのように「思い出」と向き合うべきか。

韓国人の男女が
12歳、24歳、36歳でそれぞれ経験する出会いと別れについて。
それぞれの人生のフェーズにおいて
仕事や結婚などを経験し、人間としても成熟し、
お互いに対する感情、距離感、熱量は当然に変わってくるが、
やはり、「初恋の人」は男女それぞれにとっても特別なもの。

SNSの時代でなければ、
「思い出」のままで残っていた関係が、
気軽に「再会」することができる。
リアルであってもオンラインであっても。
そして韓国とNYに物理的に離れていたとしても。
職業や立場という社会的な距離があったとしても。
さて、このことが本当に幸せなことなのかどうか。
「思い出」は思い出だからこそ美しいのではないか。
この作品では、男女ともにポジティブで大人で自制的あり、
女性側のアメリカ人の夫の器の大きさと理解もあって
美しいストーリーに仕上がっている。
(このアメリカ人の夫が、日常会話程度の韓国語はマスターしている一方、
韓国人の男性は、一定以上の教養があるにも関わらず、
ほとんど英語が話せないという対比も極めて映画的な表現と思う)

しかし、実際の人間関係や「思い出」は美しいものばかりではない。
過去の嫌な「思い出」、さらにそこから生まれる復讐心や嫉妬。
もちろん本作においてそのような話は描かれていないが、
SNS時代にどのように「思い出」と向き合うべきかという観点から考えると、
そのような問題提起もはらんだ、極めて現代社会批判的な作品と思う。