hikarouch

ザ・キラーのhikarouchのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
3.7
見応えは十分。フィンチャーだもの、そりゃそうだ。

ただ同時に、これがフィンチャー?というほどに、老成というのか、角の取れた印象の作品でもあった。

主人公はスナイパーなので、その時を待って、待って、待って、仕掛けるという戦型。ゆえに、非常に静かなお話。

他者との交流も極限まで削ぎ落とされており、(削ぎ落としているからこそ、クライマックスの会話シーンが際立つ、というのも分かるのだけど)自白型のナレーションで話が進むので、ダイアログ好きな自分の好みとは違った。「ソーシャルネットワーク」みたいなお喋りフィンチャー作品が好きなんだよな。
ただこの自白では本心は語られないので、そういう意味で興を削ぐようなナレーションではなかったのは良かった。

あと音が気持ち良かった。銃器を準備したり、片付けたりするときのカチャカチャが心地良い。

主演のファスベンダーの、徹底的に自己抑制を効かせ(言い聞かせ)つつも、大小色々なしくじりもあり、それに狼狽えたりする様がものすごく実在感を醸していて、ありそうでなかったリアルな殺し屋像として新しかった気がする。演技と役作り素晴らしかった。

自分のしくじりが招いた不幸により身内がひどい目に遭わされ、その犯人に復讐する話。ということすら、明確には説明されない。
またその復讐も、本当のターゲットに向かって一人ずつ人間関係を辿っていき、そしてその過程で全員を殺していくという。なんというか、自分がやられたことと、自分がやらかしたことややり返したこととの釣り合いが取れてない。要はやり過ぎやろと。ゆえに、この主人公に共感できない。そういう意味でも、笑っちゃうほどにカタルシスの無い作品。
hikarouch

hikarouch