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インスペクション ここで生きるのhasisiのレビュー・感想・評価

4.0
2010年代前半の米国。世界が自爆テロに怯えていた頃。
ゲイでホームレスのエリス・フレンチは、母と疎遠な25才の黒人。
海兵隊に入るため、息子を拒む母と5年ぶりに再会し、出生証明書を手に入れる。
南東部にあるサウスカロライナ州のパリス島へと送られ、多くの志願者たちと共にブートキャンプに参加するが。
3ヶ月間の過酷な訓練が待ち構えると同時に、
同性愛が禁止されているため、性的指向を隠す必要があった。

監督・脚本は、エレガンス・ブラットン。
2022年に公開されたドラマ映画です。

【主な登場人物】🍲📰
[エリス]母。
[ブルックス]教官。高身長。
[ロウズ]上級教官。
[ロサレス]教官。

👕新兵。
[イスマイル]父がイラン人。
[カストロ]ベネズエラ系。
[ハーヴィ]軍人一家。
[フレンチ]主人公。
[ボールズ]家族持ち。

【感想】🚌🎒
配給元はA24 。

ブラットン監督は、1979年生まれ。ニュージャージー州出身の男性。
短編3本と、ドキュメンタリーを経て本作へ。
10年間のホームレスと、海兵隊に5年間勤務した経験に基づいて作られています。

🪖〈序盤〉🏃🏿‍♂️🏊🏿‍♂️
貧困層のゲイマゾが海兵隊体験。
同性愛がばれたら即退場。
実体験の掘り起こしで、暗い青年時代の記憶。虐待もイベントではなく、空気感で表現する本物志向。
奇をてらわず、じっくり腰を据えて眺めるがっぷり四つ。
家族の助けもないが、仲間への愛はある。

🪖〈中盤〉🔫🧑🏿‍🎄
過酷な訓練に苛めがプラス。
海兵隊で人の温もりを感じるからこそ、身に染みる孤独。
仲間ゼロ。視聴者はフレンチを見守っている気分が味わえる。

死に方を選ぶために生きる。
現場を知り、生き残った人の演出。
どうして兵士を目指すのか。
相手の声を聞く意味とは?

人を好きになるのに性別を気にするのは経験が浅いから。
相手を受け入れるのに友達も恋人もない。

🪖〈終盤〉🤼‍♂️🦞
赦し。
フレンチの影響力で世界が変わっていく。
硬さがほぐれ、固定観念が崩壊してゆく様が心地いい。

卒業試験。
『ウーマン・キング 無敵の女戦士たち』とよく似ているが。
躍動感を消して、カメラの手振れが目立ち、映画的な面白さは乏しい。
その分、現場にいるような臨場感がある。

教官が大人で新兵が子供の役。
生存競争ばかりで、教育を受ける機会に恵まれないので貴重な感覚。
実践がほしい気がしたが、学校でしか味わえない体験もある。

【映画を振り返って】🫡🎖️
海兵隊の訓練の厳しさの理由が伝わってくる本物の凄さ。

フレンチは、根性があって大らか。修羅場を潜ってきているので、細かいこと気にしない。頼りになるタフガイだ。
監督本人の話なので少ないキャライベでもずばずば刺さる。

ただ、公開当時に町山さんのインタビューを聞いた影響なのか、昔見た映画な気がする。
それだけ、オーソドックス。
普遍的な世界を描いてあるのだろう、軍隊の訓練でお馴染みの場面ばかり出てくる。
海兵隊では、戦場動画を撮影する仕事をしていたらしく、現実がフィクションに寄せていく不思議な体験ができる。

とは言え、現場の空気や微妙な演出の違いで印象が変わってくるから、けっきょく監督の生きざま。
それまでどんな人生だったのか、ぜんぶ見えるのが映画。

🚿明るい一面も。
途中、何ヶ所かギャグ入ってくるから、空気が凍りつく。
そして、思いのほか気が多いフレンチw 欲望を隠さずに表現し、美化もしていない。
男性たちの様々なリアクションを見ているだけでも面白い。

🧑‍🤝‍🧑ゲイの視点。
実在しているかのようにキャラが立っているので、周回にも耐えられる。
監督の各キャラへの愛情度合いが演出の違いで見て取れるので、にやにや。
好きなタイプばかりを選んだのか、と想像すると汗まみれの逆ハーレムに。
(すげー仕事だな)

インタビューでの監督は、演説家のようで「存在価値」や「分断ではなく対話」のような大仰なテーマについて語るけど、
難しいこと抜きにしても、コーチに厳しく指導されるスポコンが好きな人は気にいると思う。

監督の母は16才で彼を生み、最初は愛情をかけてくれていた。幼少期は関係が良好だったのが救い。
同性愛の発覚によって拒絶された経験は、彼に海兵隊で生き残る強さを与え、海兵隊は生きる意味を与えた。

この経験を世に出さなくてはいけない、と使命感に駆られて作られた本作。
地獄を生き残った本物の兵士が伝えるメッセージはずっしり重い。
監督の母の苦労話を聞かされると、彼女もまた地獄の中にいたのだと知る。
親の人生を知ることは“赦し”への第一歩。
映画を通して監督の愛が伝わり、地獄を生きる子供たちが1人でも多く救われることを願って。
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