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アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界のhasisiのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

監督は、アーサー・ジョーンズ。ジョルジオ・アンジェリーニ。
2024年にNetflixで公開されたドキュメンタリー映画です。
※アラスジに感想を混ぜながら最後まで。その後に振り返りを。⚠️

【概要からアラスジへ】💻🖱️
監督2人の生年月日は分からず。
アンジェリーニ監督は、男性。
ドキュメンタリー映画は2作目。
20代は音楽業界で仕事。
2008年にサブプライム住宅ローン危機を経験。
ライス大学に入って建築を学び直す。デビュー作は、住宅経済の歴史を辿ったもの、と多様なキャリアを持っている。

ジョーンズ監督は、男性。
ドキュメンタリー映画は2作目。
ネット・ミーム「カエルのペペ」を扱ったドキュメンタリー映画『フィールズ・グッド・マン』を手掛けていて、本作は続編らしいです。

🧑🏼‍💻〈序盤〉🗼😺
米国。
90年代。ADSLでネット回線が一般家庭にも普及し始めた頃。
エヴァにポケモンにDB。日本の2次元文化は世界の最先端で、米国でも多くのファンを魅了していた。
一方で、日本人はパソコンではなく携帯に夢中。Emojiのような特殊な文化を生み出した。
2chもその1つに数えられる。

[2ちゃんねる]🗒️
1999年5月に開設された日本最大級の匿名掲示板サイト。
現在でもYouTubeで言論人として活躍する論破され王こと「ひろゆき」が開設者である。

そう言えば昔、テレビで大竹まことが「ラジオのハガキ職人と違って、ネットの連中は匿名だから」とか発言していたが、「IPアドレスが残るから匿名じゃねぇ」
と反論したかったのを思い出した。
(ツッコミ入れるのに10年以上かかってしまった……)

Twitterが日本で公開されたのが2008年4月。なので、2chは人が集まる場所。情報収集の場として価値が高かった。
ブラウザーを入れて、当然のように通っていた。

当時はまだ自動翻訳が普及していなかったので、米国人もエロ画像目当てで、言葉の意味も分からずに2chを観覧していたのだとか。

[4chan]📝
2003年10月開設。画像掲示板スクリプトを流用して作成された英語版2ch。
ハンドルネーム、mootこと、クリストファー・プールによって作成された。
現在でも英語圏最大の匿名掲示板として運用されている。

GIFアニメでミームを貼りつけ。返信がついて作成者が喜んでの繰り返しが、いまのTikTokとよく似ている。

[ネオむぎ茶事件]🚌
2000年5月に佐賀で発生したバスジャック事件。
犯人の17才の少年が2chで使っていたハンドルネームを冠している。
神戸連続児童殺傷事件の犯人と同学年から「キレる17才」が話題に。

たまたまこの学年に友人が多いのだが、めっちゃいい子ばかり。
語りたい事いっぱいあるけど「育て方しだいなんだよなぁ」
「カオナシには仕事を与えればいい」と語った、宮崎駿は偉大だった。

当時は、ネットが誕生したばかりで、現代のように庶民がまだGAFAMによって大人しく飼いならされていなかった。
乗り遅れた人達は、ネットで築いた人間関係を馬鹿にして、自尊心を保っていた。
(今でも同じような現象が繰り返されている)
なので、実世界に爪痕を残したいやんちゃな子が今より多かった。
2chも今のXと同じで、彼らにとっての居場所だったのだろう。

闇の中でしか生きられない人間もいる。
いくら発言の場を奪っても、どこかに似たような場が作られる。
匿名性を無くせば問題が解決するとか。いまよりクリーンな場所にしたい、などと考えているのは、他人の気持ちが分からない人。
負の側面を吐き出せる場所を訪れて、ガス抜きしないと不満が募るだけ。

[4chanレイド]📠
劇中ではイタズラと表現されている。
日本の荒らし、突攻撃(凸)のようなもの。
攻撃対象を定めて、集団で正義の名のもとに鉄槌を喰らわせる行為。
お祭り。

[Habboホテル]🏨
2003年から2009年まで運営されたSNS。クォータービューのドット絵で作られた仮想空間を舞台に、アバターを所有し、コミュニケーションできるサービス。

「黒人のアバターを使うと、排除される噂あり」で人員を招集。
2006年7月に全員がアフロの黒人アバターを作成してログイン。アバターを越えて移動できない仕様なのか、それぞれがプールに繋がる道を塞ぎ、「エイズのためにプールは閉鎖された」と宣言する悪戯を行った。
(あ、立っている画像をスクショして、閉鎖した、とアピっていただけかも)
アバターを並べて鍵十字の人文字をつくるなどのネオナチを彷彿させるアピールも。

彼らの影響力は現実の世界へと飛び火。実際のプールでプラカードを持ち、Habboホテルの事件を再現する者たちが現れるなど、社会問題に発展した。

この事件を切っ掛けに運営のmootは、掲示板での規制を強化。
悪戯を先導していたプログラマー、キルタナーを解雇。彼らは分裂して、アノニマスと名乗るように。

アノニマス=ホワイトハッカー? 程度の知識しかなかったので、彼らのルーツが4chの悪戯集団だと知って驚いた。

[アノニマスの活動開始]🎭
2007年1月。極右政治評論家のハル・ターナーを標的に。
HPに負担を与えて機能停止させるDDoS攻撃と、彼のラジオ番組へのイタ電で攻撃。
注目を浴びたターナーは、政府高官の暗殺の呼びかけなどの理由で有罪に。2年間を刑務所で過ごしている。

[チャノロジー作戦]👽
2008年1月。
アノニマスは成功体験を経て、つぎにSF宗教団体、サイエントロジー教会を標的に。
YouTubeに載せた宣戦布告動画がCNNで取り上げられて話題に。
ターナーに使用した攻撃に加えて、ファックスのインクを無駄に使用させるため、真っ黒な原稿を何回も送信する「黒ファックス」も採用。

2月には世界43ヶ国。142都市で総勢1万人が参加する抗議運動に発展した。
ここで初めて匿名の象徴として、『Vフォー・ヴェンデッタ』のガイ・フォークス・マスクが登場する。
わたしも何故か異様に好きな映画だったので、胸躍った。

👨🏼‍💻〈中盤〉🏙️🪧
アノニマスは、2010年には政治関与グループと悪戯継続派(キルタナー)で分裂。
2011年の抗議行動「ウォール街を占領せよ」など、デモは続行された。
FBIのサイトへの侵入を切っ掛けに、本作に登場するメンバーなど5人の逮捕者が出た。
誰でも入れる組織なので、命知らずな過激な人が参加。初期メンバーが断れずに犯罪に手を染める、のような流れ。

劇中だとアノニマス全体に潜伏期間があるかのように描かれているが。
実際は一枚岩ではないので、中国政府やイスラエルのウェブサイトのハッキングや、ダウンなど活動はつづいていた。

[ゲーマーゲート集団嫌がらせ事件]🎮
フェミニズムへの極右の反発であり、ハラスメント運動として。
2014年から2015年まで、ゲーム業界で働く女性をターゲットに嫌がらせが行われた。
主に、フェミニスト評論家のアニタ・サーキージアンと、
ゲーム開発者のゾーイ・クィン。ブリアンナ・ウが狙われた。

この辺まで来ると、小父さんはもう付いていけない。
(年寄りは最近の出来事が思い出せない)
そもそもゲーマーゲートが分からない。日本語で検索すると事件の詳細ばかり出てくる。

スウェーデンにあるビデオゲームストアだった。SteamやEpic Gamesを小さくした感じ。

このようにオンラインで組織化してゆく極右の動きが、この後の2016年に行われた米国大統領選挙。
ドナルド・トランプの当選を後押しした、らしい。
政治活動に興味がなかった4ch管理者のmootは、2015年1月には辞任。ひろゆきが所有者に就任している。

当時、ヒットラーの再来と言われていたトランプに対抗するために左派も団結。米国では分断が進み、プロレスのように激突するように。
いま振り返ると懐かしいけど、この頃は闘争がつづいて世界の終わりのようだった。

👩🏼‍💻〈終盤〉🏴🧨
[Q]🕴🏼
2017年10月に4chに現れた政府高官と思われる人物。
Qは投稿した文章の語尾に+++とつけたのだが、その10分後にトランプがTwitterで同じ語尾を使って呟いたので、噂が信憑性を帯びた。
彼の主張は「トランプは、世界を裏で支配する秘密結社と戦っている」という陰謀論。

「ハリウッドのセレブから子供たちを守れ!」
彼の言葉に感化され、どこかにいる陰謀団と戦う政治運動は「Qアノン」と呼ばれた。
ネットを飛び出してトランプ陣営の集会に現れ、彼の軍隊と化してゆく。

Qアノンを勉強すると、YouTuberのナオキマンが後追いしているのがよく分かる。
ただ、ネトウヨは下火。近衛文麿とか八咫烏(やたがらす)などと言われても、今一ピンとこない。
現体制を維持したいようなので、デモとは方向性が真逆なのと、表にしすぎると消されるのが痛い。

[米大統領選]🗳️
2020年。
闘争疲れしていた米国では、穏健派のジョー・バイデンが大統領に当選。
トランプが再選して陰謀団を解体する、と予言していたQの投稿も終了したが。
支持者は「選挙に不正があった」と主張。
ドミニオン社の投票機が、意図的に集計エラーを発生させ、トランプへの数百万の票を削除したという、推論を展開した。
ちなみに、報道していたFOXニュースは名誉棄損で訴えられ、のちに1060億円の和解金を支払っている。

[アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件]🏛️
2021年1月6日。トランプを支持する群衆が、
「大統領選で不正があった」と訴え、
連邦議会が開かれていた議事堂を襲撃した事件。

公式では2000人の議会警察がいたはずだが、ゆるいデモ隊のような群衆がガードフェンスを押し倒して進行し、なすすべなく押し切られている。
ただ、敷地内を埋め尽くすほどの黒山。数が違いすぎるので抵抗しても逆効果。議員は地下室に避難していたため、刺激しないように上手く対応したとも言える。

首都警察などが1000人近く。それとSWATが駆けつけ、侵入者たちは4時間後に排除されている。
多くの参加者は指でOKサインをして掲げていたが、それは白人至上主義を表していた。

Qアノンは、行き場のない白人男性の集まりで、ホワイトハウスを占拠した人たち、程度の理解だったので、色々腑に落ちた。
元オウム真理教の幹部、上祐史浩が「都市伝説がプチカルトの役割を果たしている」と発言したが、その意味がやっと理解できた。
Qがメッセンジャーの役割を果たし、トランプ信者を先導。教祖がホワイトハウスへの集合を促したとしたら。
ネットで繋がった現代的なカルトと言われれば、その通りだろう。

シャドウバンされない表現の自由をうたうSNS「パーラー」
キルタナー率いる悪戯派のアノニマスは、そこから当日の映像データや会話を収集。
さらに、極右やネオナチのコンテンツもホスティングする会社(プロバイダー)「Epik」をハッキング。
群衆に参加した人々の顔や名前。個人情報を晒し物にした。
ネットの荒らしも分断を繰り返し、終わりなき足の引っ張り合いをつづけるのだった。


【映画を振り返って】🖥️⌨️
序盤は、X世代には懐かしいネット創世記で興奮。Y世代でも、父親のパソコンでこっそりエロ動画を見ていたような人であれば共感できるだろう。
中盤からは、米国の内部闘争の歴史へ。町山さんの「アメリカの今を知るTV」で得た知識しかなかったので、興味深かった。

順を追って見ると、4chと荒らし文化の誕生。不満を持った若者たちを先導したアノニマスの突攻撃から、トランプ大統領の誕生まですべて繋がっているのが分かる。
まさかトランプの生みの親がひろゆきだったとは。
(そう言えば、発言をいじられる王様で、社会での役割がよく似ている)

製作者側の理解度の低さが若干気になった。
「空想ではなくて現実を生きろ」とか「まだネットは誕生したばかり。どう使うかは100年の課題だ」とか意味不明。
エロ画像を収集するのも、Qアノンがホワイトハウスに集合したのも現実。
2chは空想の掃きだめではなく現実。物理世界と地続きのデジタルネイチャーだ。

米国で暮らすと頭が対立軸に支配される。
互いのイデオロギーをぶつけあい「自分こそが正しい」「お前らは悪だ」とトランプ化してゆく。
正義の鉄槌を振るうのに陶酔し、相手を怪物のように扱い。自分と同じ家族をもつ人間である事を忘れる。

内側から湧きあがるサディズムを正当化して、方々敵だらけ。周りからは「面倒な人だな」と腫物扱いに。
それで思想について説くとか「冗談、ですよね?」
(わたしは日本の良さを大事にしますよ😤)

少なくとも、本作に登場するアノニマスのハッカー、キルタナーは「自己顕示欲が強く、ドーパミン中毒」と自分を理解していた。
支持政党の魅力を広めたいなら、まずは心の余裕から。
憧れの人の言葉は自然と力を帯びる。
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