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ロードハウス/孤独の街のhasisiのレビュー・感想・評価

ロードハウス/孤独の街(2024年製作の映画)
4.0
米国。
ダルトンは元UFCのミドル級で活躍した格闘家。今は賭博の対象である地下格闘技で生計を立てる落ちぶれた生活を送っていた。
いつものように試合のあった夜。酒場のオーナーであるフランキーにスカウトされて、用心棒を引き受けることに。
訪れたのは、フロリダ半島の南端にあるモンロー郡。そのさらに南、メキシコ湾に浮かぶ細長い列島の1つ、グラスキーズ。
サンゴ礁の島に建つ大きな酒場はヤシの葉が敷かれた屋根が目印。店の名は、ロード・ハウスだった。

監督は、ダグ・リーマン。
脚本は、アンソニー・バガロッツィ。チャック・モンドリー。
2024年にAmazonプライムビデオで公開されたアクション映画。
『ロードハウス/孤独の街』(1989年)のリメイクです。
※予想できなかった終盤の展開や、メタファーに触れて感想を書いています。⚠️

【主な登場人物】🪇🎸
[エリー]女医。
[サム]青シャツ。
[ジェラルド]獄中。
[スティーブン]本屋。
[ダルトン]主人公。
[チャーリー]本屋の娘。
[デル]ギャングリーダー。
[ノックス]影。
[ビックD]保安官。
[フランキー]酒場の経営者。
[ベン・ブラント]敵ボス。
[ローラ]眼鏡の店員。

【感想】📚🖥️
リーマン監督は、1965年生まれ。ニューヨーク出身の男性。
ユダヤ系。
ブラッド・ピットの『Mr.&Mrs. スミス』や、
トム・クルーズの『バリー・シール/アメリカをはめた男』
など、日本でも馴染み深いアクションの専門家。

原作の『ロードハウス/孤独の街』(1989年)は、
物語は似たようなものだが、冒頭はヤンキー先生のような内容。
ゴロツキと無秩序があり。そこに道徳を持ち込む。
争いに介入しまくって、ちやほやされるボス映画かと思えば、ちゃんと見守り視点。相手に敬意を払い、ガス抜きさせる。

中盤以降は、だらだらと用心棒の仕事がつづき。
終盤は報復合戦がエスカレートして、カンフーのようなアクション色が濃くなる。時代を反映しているのだろう、カースタントも見もの。

当時、ゴールデンラズベリー賞(最低の映画)に5部門ノミネートして、受賞を逃したという、突き抜けたB級映画だ。
リメイクなんて日本の常識では考えられないが、ユダヤ資本ならではの余裕のある題材選びが光る。

🛖〈序盤〉🍻🍹
絵変わりするよう、最初は地下格闘家に変更。
引退した好きな選手を店で雇いたい気持ちは分かる。
キャライベ尽くしで、ダルトンの自己紹介。
教育者視点は消失して、現代らしく孤独な主人公に。

手持ちカメラで選手に寄り。UFCより近い迫力のアングルだが、打撃の衝撃は誇張しないお洒落仕様。(溜め)
物静かなギャグも織り交ぜて独特な演出。
不穏だから先が気になる。

店を育てる。
原作だと宗教者のように「相手に優しさを持って接する」価値観が広まる形式。
本作では人集めから。
経営SLGのように、面白さを引き出せる要素。
原作もそうだけど、序盤で終了するには惜しい題材。
『転生したらスライムだった件』のようなもの。

🛖〈中盤〉🌉🛻
報復のはじまり。
期待していなかったカーアクションも少し。
ただし、「仕方ない理論」を使ったただのスリラーでサイコに。

喧嘩が素人。
取っ組み合いはスキンシップであり、距離を縮めるためのコミュニケーション。
じゃないと、命がいくつあっても足りない。
初手で相手の急所を潰して殲滅戦。
戒律は守っても、対話する気はなし。
ガザ地区でやっている事と変わらない。

🤜🏻聖人VSサイコ。
皆に愛される優等生ちゃんのお決まりパターン。
トラウマと向かい合うための分かりやすい伏線回収。
過剰攻撃についての質問で、徐々に全貌が見えはじめる。
パレスチナ・イスラエル戦争に絡めて同胞へのメッセージ。

🛖〈終盤〉🏖️🚤
瓦礫の山がニュース映像と重なる。
被害者の気持ちを考えてしまう演出。物語だからこそ伝えられるものがある。

闇落ち。
原作にあった「暴力のエスカレート」に意味を持たせてある。
自分たちの姿と向かいわせるため。
まさかこんなに難しい課題に取り組むとは思わなかった。
娯楽映画製作で仕事をこなしつつ、宇宙の法則の外側を目指す。
たまに才能ある人に出会えるのも、映画鑑賞の醍醐味。
ユダヤ教お決まりのキリストネタも。
(君たち本当に好きだねぇ)

【映画を振り返って】🐊💣
本作の点数が低い現状に、世間との温度差を感じた。

ダルトン。
穏やかで冷静な格闘家。笑顔が不気味。
武器を使わない『グレイマン』
脱力して、生活感も人間味もない透明な存在に。

見守りとガス抜きが消失。
実世界とリンクしていた要素は消失した。
原作から学んでいないのが分かり、残念。
歓楽街にたむろするゴロツキを理解していない。
演出にはフィールドワークの経験不足がもろに出るが。
代わりに、彼らにとっての問題と向かい合っている。

💥アクション。
チンピラに刺される、自殺しようとする。のようにイベントが縦に繋げてある。
それでも、原作のお陰で、
「用心棒が現れて町を変える」の、分かりやすい縦軸は健在。綺麗な連続性によって先が気になり、
途中で離脱させない力がある。

酒場での乱闘だけでも見る価値があると思ったが。
終盤の海を絡めた戦いは素晴らしい、の一言。
『タイラー・レイク』の時に「コンクリの角にぶつかるのが一番伝わる」と表現したが、本作はオブジェクト衝突の連続。
“傷み”が好きな人であれば、見て損のない頑張り具合に。

その他。
・90分映画にするのかと思えば、まさかの上映時間変わらず。
濡れ場とカースタントはカットされたが、海戦アクションが追加された。
・酒場を中心に、ほとんど場面をロケに変更。南の島の自然光で風光明媚な地が楽しめる。

🏝️旅行記。
長期滞在を意識させる、居場所を重視した構成。
会話の薄っぺらさが玉に傷だが、悪くない。
原作はだらだらした展開が魅力だったので、リゾート地とは非常に相性がいい。

カメラワークは徹底的に空間の広さを表現してある。
お陰で、ヒロインとの2人きりの場面では望遠での背景ぼかしが効果的に機能。
……なんて、言わせている時点で、やはりカメラマンの主張が強すぎる帰来が。

🧱仮庵戦争。
ユダヤ系の無表情暴力がギャグとして成立しない時代に。
年間何十本見るか分からないほど、お世話になっているので心が痛い。
リメイクは仮の姿。
己の姿を鏡で見るように。
半面教師として作ってあり、勇気ある挑戦を称賛する。
戦争が終わらない現代に相応しい題材の皮切り。

タイトルのロードハウスは、劇中に登場するような酒場の意味。
店名はロードハウスではなく、ロード・ハウスと表記してある。
店の主は「先代がつけたユーモアだ」と表現した。道と家の間に入った点が分断壁を意味しているのだとしたら。
いずれ壁を建てたツケを支払う日が来るだろう。
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