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モガディシュ 脱出までの14日間のhasisiのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

監督は、リュ・スンワン。
脚本は監督と、イ・ギチョル。
2021年に公開された政治アクション・スリラー映画です。
※アラスジを最後まで。その後に感想を。⚠️

【主な登場人物】🛬🏜️
🔵韓国。
[カン・デジン]参事官。高身長。
[キム・ミョンヒ]ハンの妻。
[コン・スチョル]書記官。糖尿病。
[スワマ]地元の運転手。
[チョ・スジン]コンの妻。
[パク・ジウン]事務員。
[ハン・シンソン]大使。

🔴北朝鮮。
[テ・ジュンギ]参事官。
[チェ・ガンシク]書記官。
[チャン・リチョル]書記官。
[ペ・ヨンスク]リムの妻。
[ペク・ファシ]チェの妻。
[リム・ヨンス]大使。糖尿病。
※夫婦で苗字が違うのは夫婦別姓です。

【アラスジ】🕌🐫
スンワン監督は、1973年生まれ。韓国出身の男性。
パク・チャヌクの弟子で、2000年に長編デビュー。
アクション映画の専門家で、香港映画好き。
今回が11作目。
本作は、実話に基づく物語らしいです。

🚗〈序盤〉🫴🏿💵
1990年のアフリカ。アフリカの角と呼ばれる東端の半島、ソマリア。その首都であるモガディシュ。
韓国が国連への加盟を目指していた頃。アフリカ諸国は国連での最多投票権を持つため、友好関係を結ぶのが外交官にとって重要な任務だった。

カン参事官は旅客機で1年ぶりにソマリアの地に足を下ろした。
ハン大使は土産の入ったトランクを受け取り、車で大統領官邸を目指す。だが、移動中にギャングに襲われ、トランクを奪われて車は銃弾で穴だらけ。面談の予定時刻に間に合わず、機会を逃してしまう。

スラム街。北朝鮮のテ参事官は、手下のギャングに報酬を支払い、トランクを受け取った。
北は軍事産業で国を支えるナラズ者国家であり、アフリカ諸国は20年前から常客。ソマリアとの国交も良好で、68式小銃の提供など、太いパイプを持っていた。

ホテル。韓国(南朝鮮)のカン参事官は、北の反乱軍への軍事支援をストップさせるのを条件に、政府に南の国連加盟を支持するよう、約束させようと尽力していた。
だが、外務大臣は米国に留学する子供への資金援助を要求。ソマリアでは、まともな交渉は通用しないと痛感する。

北と南の外交官が口論していると、道路で武力衝突が開始。催涙ガス弾が撃ち込まれ、ホテルの巨大な表門は閉じられた。

ソマリアは社会主義革命党の一党独裁。マレハン氏族のみを優遇し、他の氏族を見捨てた格差社会だった。
80年代から反政府勢力が連合し、武装闘争が表面化。
88年には、モガディシュと一部の地方都市を除き、反政府勢力「統一ソマリ会議(USC)」の勢力下におかれていた。
そして、ついに反乱軍の攻撃が首都でも開始されたのだった。

🚗〈中盤〉🍜🥡
街は戦闘と略奪で騒然。旅行会社は撤退。銀行と官公署は閉鎖。
大使館前にもデモ隊が押し寄せ、警察官が必死にせき止める。
外交官も家族と協力して、窓を棚で防御し、投げ込まれた火炎瓶の消化に奮闘した。

脱出を目指す外交官たちだったが、空港を閉鎖されて足止め。電気と水道は止まり、石油も底をついた。
大使館に缶詰め状態。熱帯夜でロウソクに火を灯し、蚊を叩いてすごす。

北朝鮮大使館では、テ参事官が手下のギャングを迎え入れた。通行証を受け取る手はずだが、食料や金目の物。車をすべて奪われてしまう。女たちが襲われ、テが抵抗するとリンチに。リーダーは暴行を制し、
「これで借りは返した」と告げて、仲間と共に建物を後にした。

北の外交官は家族を連れ、徒歩での避難を開始。
中国大使館を目指すはずが、反乱軍と暴徒を回避するうちに辿り着いた先は韓国の大使館だった。
北と南は渋々合流。残りの食料で夕食を共にした。

🚗〈終盤〉🚧🛻
翌日。防衛戦で弾切れした警察官2名が姿を消し、大使館は無防備な状況に。
一旦、北と南から2名ずつ先行し、近しい大使館を訪問。北はエジプト大使館を訪ねるも空振り。南が訪ねたイタリア大使館で、赤十字の救難機に乗せてもらえる目途が立つ。
北だと連れて行けないので、南に転向したと偽る計画。
午後4時までの到着を目指す。

車を1台提供してもらって帰宅。南も車の調達に成功して全部で4台に。
全員に状況を説明し、脱出の準備を進める。

ロッカーや建物のドアを剥がして、自動車の屋根にくくりつける。
窓硝子はすべて透明テープで補強。
ボンネットには辞書のような分厚い本を敷き詰めて布テープで固定。助手席のフロントガラスにも。
さらに、手提げ袋に砂をつめて巾着のように絞り。てるてる坊主のように紐に結び、ビーズカーテン状にいくつも屋根からぶら下げてサイドドアの防弾に。
お手製の装甲車の出来上がりだった。

〔メルセデス・ベンツのEクラス(1994)青〕
南のカン参事官が運転。夫婦と子供2人。

〔BMW 324d セダン(E30) (1990)青〕
南のコン書記官が運転。夫人と、3人家族が同乗。

〔メルセデス・ベンツのW123(1976)銀〕
南のハン大使が運転。男性。夫人と子供2人。

〔ボルボ 240エステート・赤〕
北のテ参事官が運転。助手席に1人。後部座席にリム大使夫妻と息子。

1台に5人、総勢20人の外交官家族が車に乗り込む。
イスラム教の午後の礼拝がはじまった。
響き渡る祈りの詠唱に合わせ、車は一列になって韓国大使館を出発した。
反乱軍もマシンガンを手元に置き、モスクに向かって正座。お辞儀している時間。
その横を刺激しないよう、瓦礫と化した街を静かに通過してゆく。

制限時間、残り15分で政府軍の検問に捕まる。先頭のカンが大韓民国の外交官旅券を示して、通過を希望。
ずっこけコン大使が窓の隙間から白旗を出そうとするが、棒をライフルの銃身と誤認されて一斉射撃。
全車両はバックして回避。マシンガンの雨を浴びつつも、順調に距離を開くが。最後尾のセダンが急ブレーキで玉突き衝突。
銃撃しながら前進してくる軍隊。ハン大使の「ついてこい!」の一声で一団は横道へ。

ボディを穴だらけにされながらも順調に加速。このまま行けるか、と油断するが、小型のウィリス・ジープCJ-3Bが追いかけてくる。
横につけられたエステートが急ブレーキで回避。後方、慌てた青いベンツがハンドルを切った。
ジープの剥き出しの後部座席には兵士。ポール状の銃架に固定された機関銃PKMで容赦なく撃ってくる。
銀のベンツの後部座席。大使家族は身をかがめで銃弾の雨をしのぐ。
ジープの後方につけた青いベンツが突撃。
フロントバンパーの追突の衝撃で、天井の装甲版が発射されて兵士に直撃。負傷した兵士がハンドガンに切り替える。
銃弾を浴びながら青いベンツが再追突。弾かれたジープは脇道の砂山に突っ込んで足止めに。

一段落して、運転するハン大使は腕時計を気にするが、略奪をくり返していた反乱軍から火炎瓶が。
銀のベンツは火だるまに。
後方車両にもつぎつぎ投げ込まれる火炎瓶。
銀のベンツは前方のマシンガン兵を跳ね飛ばすが、フロントガラスを突き破って兵士の上半身が車内に。
運転しながらもみ合い。家族と大使が必死に抵抗する。
広場に到達して前方にイタリア大使館が見えてきた。
隣につけた青いベンツ、カン参事官のアドバイスで急ブレーキ。
衝撃で兵士は前方にはじけ飛び、地面で何度も回転して絶命した。

イタリア大使館前に到着。一行はエンジンルームから白煙をあげるボロボロの車を後にした。
カンは白旗を掲げ、建物の屋上から狙撃兵が睨みを利かせる表門を目指して走った。子供を抱えて追従する一行。
追いかけてきた反乱軍とイタリア兵が撃ちあい、けん制する。
北の車、赤いボルボが、復活した政府軍のジープに追われながら遅れて到着。
三つ巴の睨み合いに。
南の一行が両手を掲げて無抵抗をアピール。北の一行と合流を図るが。
車を運転していた北のテ参事官は血だらけで絶命していた。

政府軍に守られながら、外交官家族を乗せたバスは空港に到着。
赤十字の救難機に乗せられ、ソマリアの地を後にした。
南北はすっかり打ち解けて1つの家族のよう。互いに礼を言い、握手をして健闘をたたえ合う。
北からは、平壌に残された子供は人質代わり。亡命できない事情を説明された。

ケニア。モンバサ空港に到着。
別れは辛いが、飛行機を降りてしまえばライバル同士。
一行は空港で出迎える仲間たちに疑われないよう、一瞥もくれず、知らぬ顔をして別れた。


【映画を振り返って】🌍🛫
説明なしで唐突にはじまる冒頭。韓国映画の熱量に置いて行かれるが、要するに南北で邪魔し合うだけなので、中身は単純明快。

🪖韓国VS北朝鮮。
ソマリアを舞台に、どちらが国交を維持できるかの縄張り争い。
工業で国を支える北朝鮮の主な収入源は武器の輸出なので、アフリカ諸国はお得意様。
根回しは当然だが、賄賂も基本。
少なくとも、映画内では格式張っている韓国は不利な状況からのスタートに。

💰ビッグバジェット。
製作費240臆ウォン。日本円にすると、およそ26億円。
(円安)
映像の豪華さだけでも元がとれる。
そこに、退屈な物語で飽きさせないための細かい演出と、定期的に挿入される荒事。大作を体験している充実感が味わえた。

ただ、映画がどこに向かっていて、画面上の人物が誰なのか? が直観的に伝わってこないので、監督の航海士としての能力は低いと思う。
(わりと致命傷なんだよなぁ)

🔫軍事侵攻。
ソマリア内戦の歴史を題材に。
終盤は「南北で協力。韓国大使館を脱出して、イタリア大使館を目指す」という、ロードマップがはっきりしているので迷わなくていい。監督向きの題材。
映像の迫力に全振りして、過酷な闘争に没頭できる。
メキシコの暴動を描いた『ニュー・オーダー』と比べると、残酷描写が抑えてあるので、途中で具合が悪くなるような心配もない。

ただ、群像劇ではなく、メインキャラが絞ってあるので「どうせ死なないでしょ」で、緊張感は乏しい。

🌶️朝鮮統一。
韓国と北朝鮮の2ライン同時進行。
織姫と彦星のように。
現実の世界と地続きなので、合流すると国が1つ戻るかのように錯覚させて盛りあがる。
アフリカを舞台にした友情もの。
隣で暮らしているといがみ合うが、祖国から遠く離れた地であれば貴重な同胞に。

🤜🏻兄弟喧嘩。
危機的状況で、合流しても足の引っ張り合いは変わらず。
アラスジではカットしたが、南が北を暴力でボコボコに。一見すると、格闘術で勝っているように思えるが、かえって印象は悪くなる。

人前だとすべては逆に作用する。
プライベートでマウンティングされても鬱陶しいだけだが、
人前であれば、同情されて好感度が上がるので叩かれ得だ。
一方、叩いている方は「家では嫁の尻に敷かれている、と言いながら、どうせ本当は家族にも厳しくて、嫌われているでしょ?」と透けるので、印象は最悪に。
……まあ、同胞を叩いてドヤっているような人は自覚すらないのだろうけど。

🏛️歴史を活かす。
各々の得意分野をいかして難局を乗り切る。歴史を題材にして実話のような臨場感がある。
多様化でキリスト教題材が使いにくくなったので、
最近は数学や化学が取り入られている。
本作のように、実際に起きた出来事を取り入れれば、作品に深みを与えるのに効果的。
(タイムスリップもので、歴史改変するのに近い)

ユダヤ教でも、D&Dでも何でもいいので、既存の世界観を流用すれば、風土と同じように旅行しているような感覚が得られる。
少年漫画や、ファイブスター物語のように設定厨になって、自分で構築するのもありだ。
(……その分、処理速度が重くなるので絶対ではない)

🚪逃走劇。
自家製装甲車で戦場を駆けぬける家族連れ。
荒廃した市街地の再現度合が圧巻。日光江戸村ならぬ、アフリカ廃墟村。エキストラの数が尋常じゃない。
外交官一行は撃たれながら、反撃もできず、ひたすら逃げるサンドバック状態。穴だらけの乗用車の列がひたすら走ってゆく。

見た事のない状況と迫力の映像に圧倒される。
とくに割れたフロントガラスからカメラが入り、後部座席に抜けてゆくショットが印象的で、「どうやって撮影したんだ」
子供の頃に、はじめてアクションを観た時のような興奮が得られて、香港映画育ちにはたまらないものがあった。

⌚ツッコミどころ満載。
細かく書いてゆくと崩壊するほど作りが甘いのですが、ここでは触れません。
横道に逸れる場面が多く、迷走する本作の中でもとくに不自然なのが、一番の見どころである、カーチェイス。
一旦、車でイタリアとエジプト大使館に出向く。車を借りて4台で帰宅。家族を乗せてイタリア大使館に出発――後の到着までの数十分が異様に過酷。
まるで、最初から「クライマックスだけは辛い戦いが待ってますよ」と知っていたかのように入念な準備。

まあ、まじめ一辺倒なドラマ映画や、アクション短編集より、本作のような「ごった煮映画」の方が好きなので許容範囲。すべてコメディで解決できるので無問題だけど、
突然の難易度急上昇。
同じ道を往復したとは思えないほどの過酷さだった。

ちなみに映画の後、バーレ政権は崩壊。国は3分割され、いまだに内戦がつづいている。
劇中では醜く争っていた韓国と北朝鮮だが、91年の9月には仲良く同時に国連に加盟できた。

⚜️一党独裁。
遠い国の話のようだけど、GAFAM帝国主義のように、世界中に蔓延している病。
高度な化学文明が発展しているのに、人類の生活はより過酷に変化するという、あべこべな状況に陥っている。だが、
狩猟採集を行っていた「明日死ぬかも」の時代から何も変わっていないとも言える。
文句言ってストレスを発散するか、体力をつけて乗り越えるかの2択なのでシンプルではある。

最近取り入れているのは「自宅でととのう方法」と「美筋ヨガ」で、
どちらも、入浴とヨガを1段階先に押し上げているので、アンチエイジング好きな人にはお勧めです。
(YouTubeで検索すれば出てきます)

ヨボヨボで同胞を叩き、反論されたらパニックに陥るようなお爺ちゃんには成りたくないので、
体力づくりに勤しみたいと思います。
モガディシュで生き残るために。
hasisi

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