あんず

人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版のあんずのレビュー・感想・評価

3.9
新年1本目は、実は全然知らなかったクライマーのドキュメンタリー。沢木耕太郎が本に書いている人ということで興味が湧き(『凍』は買ってあるけど未読)、友人からも誘われて劇場へ。

ポスターのシャープな印象とは違う、自然体というかおっとりというか、生死を彷徨うような修羅場をくぐり抜けて来た人という感じを受けなかった。奥様も同様で、庭仕事をしている時なんかは、自然を愛するほのぼのご夫婦に見えた。

ご自身もおっしゃっていたけれど、山野井さんはちょっと頭がおかしい……両手足の指のうち10本を失っても、死にそうな目に遭っても山に登ることをやめない。仲間の多くも山で命を落としていて、登山というものがこんなにも文字通り死と隣り合わせということに、私は少なからずショックを受けた。そして、それでも山を愛し、登り続ける人がいることは私の理解を超える。

印象に残ったのは、自分だけを信頼していて、自分の判断なら死なない気がするとか、自分のレベル以上のことをしようとせず慎重に、といった言葉だ。自分を知り、自分を信じて生きるという姿勢は、この混迷の時代に普通に暮らしていても大切なこと。山登りしなくても、死の危険性はあり得るとこれまで以上に個人的には感じている。2023年も良き映画と出会い、何とか生き抜けますように。
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