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SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのhikarouchのレビュー・感想・評価

4.2
実話をベースに、まだまだ今でも生々しく、ある意味で現在進行系の問題を扱った作品。

この手の作品は、これを見ただけで真実を分かった気にならないように肝に銘じたい。ワインスタインを断罪したくなったり、ニューヨーク・タイムズを称賛したくなったり、不十分な司法制度に悪態をつきたくなるけど、グッと堪える。安易なジャッジはやめておこう。
作品を現実に対する判断や自らのポジショニングに使うのではなく、そのトピックに興味を持つスタート地点、自ら調べる入り口として使うのが正しいと思う。

そんなことは置いておいて、本作はとにかく映画としてめちゃくちゃに面白い。スリリングに真実に迫っていくストーリー、映像の質感、役者陣の鬼気迫る演技、電話や録音を介したヒリヒリするやり取り、抜群の音楽音響の効果。創作物としてあまりに質が高い。そう、これは劇映画なのだ。しかも一級品の。

「The Post」や「Spotlight」、古くは「大統領の陰謀」のような、メディアが巨大権力に立ち向かう話が本当に好きだ。醜い権力者たちの悪の所業が駆逐されるカタルシス、プロフェッショナルたちの仕事への矜持や葛藤、チームワーク。

ラストがあそこで終わってしまったのは、正直少し残念だった。あれだけ声を上げることに恐れを抱いていた女性たちが、勇気を振り絞った先に何が待っていたのか。ワインスタインの罪が立証されたというポジティブな側面は説明されるが、ネガティブなこともあったことだろう。権力者たちがそう簡単に白旗を上げるとは思えないから。

あと思ったのは、ワインスタイン(そしておそらく他の加害者たち)の倒錯した性的嗜好だ。金と名誉と成功を手にした人間のたどり着く境地が、そこなのかとやりきれない気持ちになる。彼がそういう嗜好を持つに至った経緯は全く知らないのだけど、彼の成功と無関係ではない気がする。何がおぞましい怪物を生んでしまったのか。怪物退治や被害者の救済の重要性と同じく、怪物を生み出す根本の解明も必要な気がする。

劇中でワインスタインはしきりに、記者たちがグウィネス・パルトロウに会ったのか、話を聞いたのかを気にしていた。作品内では描かれなかったその理由をNYTの記者たちが後に語っていた。ワインスタインは、女性たちへの脅し文句として「グウィネスのように(大成功した俳優に)成りたいだろ?」と言っていたようだ。しかし実際にはグウィネスはワインスタインから(当時の恋人だったブラッド・ピットの助けもあり)なんとか逃れて関係を持つには至らなかったそうだ。つまり彼女の成功はワインスタインの欲望の犠牲と引き換えに得たものではないということ。もしこれが公に明らかになれば、彼の脅し文句は意味をなくし使えなくなってしまうと考えて、グウィネスの口から真実が語られることを何よりも恐れていたということだ。この期に及んでまだそこを気にしていたとはもう、言葉が見つからんよ。
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