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NOPE/ノープのhikarouchのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
4.6
だからさあ、ジョーダン・ピールの新作は映画館で見なきゃダメだって言ってんじゃん!!(自分に)

これは大画面・爆音で見るべきだった。後悔がハンパない。2時間のエンタメとして、ひとつの理想形と言って良いのでは。

映像・撮影・視覚効果も素晴らしいのだが、音に痺れたね。この世に存在しない音もたくさん作る必要があったと思うけど、すごくリアルかつ耳心地が良くて、音響効果素晴らしかった。

正体不明の何かが出してくるヒントがいちいち唸っちゃうくらいに気持ち悪くて気持ち良かった。空から降る一億のコイン。謎の異音。馬ちゃんたちの暴走。電気製品のダウン。動かない雲。僕自身がエヴァに疎いせいもあるのか、最後の真昼の決闘はちょっとだけ冷めちゃったところはある。やっぱり正体不明、夜、雨、ってのが一番ドキドキするのよね。

この手の超現実的な奇譚でありがちな、(作り手に)都合の良い展開や言動が無かったのも、やっぱりさすがにうまい。Gジャンの行動パターンが結構単純で知能指数低めなのも、主人公たちが逃げずに立ち向かうことを選択したのも、決して説明的ではなくでも有無を言わさずに飲み込ませるストーリーテリングだった。Gジャンが入れ物じゃなくてでっかい一つの個体だったことが分かって、「これは外部文明との戦いじゃなくて、動物コワイコワイモノだったのかー!」と思ってひとり合点してたんだけど、鑑賞後に監督自身が「ジョーズ」を意識していたことを知り、我が意を得たりだった。未知との遭遇のフリしたジョーズなんて、好きに決まってるやん。

こういうエンタメ映画的な部分でもう十分お釣りが来るくらい楽しめるのに、そこはジョーダン・ピールなので、重量感のあるテーマもしっかり組み込まれている。見る・見られるの関係、弱者(黒人、チンパンジー、そして・・)を見世物として扱ってきた映画・エンタメの暗い歴史。井戸を覗き込むとそこに仕掛けられたカメラが写真を取るアレなんかも、あからさまにそういうことを示していた。奴隷制の時代には、黒人も白人の主人のことを直視することを禁じられていたという。冒頭で映し出される、最初の映画(動画)と言われる馬に乗った黒人青年の姿。彼は歴史から無視されてしまったが、ラストでは主人公がその存在を誇るように馬に乗った堂々たる姿で終わる。円環構造。こういうのは後で少し勉強して理解したんだけど、それだけ噛み締めがいのある複雑味のある作品ということ。好みだわ。

凶暴化したチンパンジーが風船を割るシーンも、ラスト巨大風船の伏線になっているし、電力ダウンで止まっていた閉園のアナウンスが再生されて映画そのものの終わりを告げるラストまで、もう本当にごちそうさまでしたというほどに楽しめた。

ちなみに、テレビ番組の撮影で女性出演者がチンパンジーに目玉を潰されて体の一部を食いちぎられたのはアメリカで実際にあった出来事で、一命をとりとめた彼女はその後ベールのついた帽子を被ってオプラ・ウィンフリーのトークショーに出演までしていたらしい。僕は知らなかったけど、アメリカ人にとってはトラウマな出来事を扱っていたということだ。劇中でやたらオプラオプラ言ってたのも、そのあたりと関係があったのかもね。

なんかもう要素が多すぎて全然まとまらないけど、とにかく凄すぎた。個人的にはジョーダン・ピール作品で一番好き。


ワオ!レビュー800本目だ!
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