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ケイコ 目を澄ませてのhikarouchのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
3.9
品の良い映画。

これほどに言葉に頼らずに観客に感じさせる(NOT考えさせる)作品を久しぶりに見た。

生きていくことの切なさや、人生の中で情熱を燃やせる何かに出会うことの素晴らしさや、人と人とが繋がり合いながら分かり合ったり分からなかったりしながら少しずつ互いの人生を重ねては離れていくことの尊さ、みたいなものを感じた。(言葉にするとなんて陳腐な!)

岸井ゆきのは本当に魅力的な俳優。ここ数年で頭角を現した中でもナンバーワンかもしれない。セリフどころか分かりやすい表情すらない役柄にあって、その醸し出す演技、時々二カッと見せる笑顔が眩しくて、そりゃ三浦友和会長も自分の子どものように可愛がるのが分かる。圧倒的に分かる。

それにボクシングの技術、特にミット打ち凄かったな。僕もキックボクシングを数ヶ月かじったことあるので分かるけど、あのミット打ちできるようになるには相当の努力がいる。最後めちゃくちゃ複雑なパターンが出来たときにトレーナーと「おぉーー」ってなったのは素のリアクションだったのかも。

ケイコと会長との関係性も良かったな。最後ケイコの試合を見終わってしばらくして「よしっ」と自身も病気と闘う決意を固めたかのような会長が良かった。

これだけ出てくる人みんなが良い人ばかりな映画も久しぶりだ。ワンダー以来かもしれない。

写真展みてるみたいな、美しいアングル、フレーミングも良かった。写真撮らせてもすごいだろうなこの人。

これといった大事件があるわけでなし、ハッピーエンドですらないけど、じんわりと心に染みて、明日からまた少し前を向いて生きていけるような映画。人生ベスト!とかそういうんじゃないけど、忘れずに大切にしたいような作品。誰も否定せず、誰も非難せず、誰も貶めず、誰も嘲笑わない。エンドロールに音楽もつけない。好きだ。
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