Niylah

彼女のいない部屋のNiylahのネタバレレビュー・内容・結末

彼女のいない部屋(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

『Serre moi fort/Hold Me Tight』
どんな映画なのか謎過ぎて去年からすごく気になっていた作品。先入観を持って鑑賞したくなかったので事前情報は入れずに観た。何かしら“死”に関する物語かな?とは思っていたけど、鑑賞中はいまいち話が繋がらないというか…??という部分が多くて入り込めなかった。バー(パブ?)での独り言で、あぁそういう物語なのかと気づく。彼女のいない部屋=妄想世界に逃避した彼女が作り上げた“彼女不在の家族たちの日常の風景”。突然家族がいなくなったんじゃない、自分が家を出たんだ、と思い込むことでなんとか日々をのりきる。切なすぎる。

「春を待つことに疲れた」
“雪解け”まで正気を保つことなんてとてもじゃないけど出来ないと思う。彼女の度を越した行動も非難できないし、それぐらいの行動でもしなければ耐えられなかったのでしょう。何かで気を紛らわせなければならないほど直視できない現実だったのでしょう。
春になり見つかった3人の遺体。その夫の遺体に駆け寄った彼女が泣き叫ぶのではなく怒りをぶつけたことがとても印象的でリアルに感じた。あぁそうだよねぇ、なぜ!?どうしてこんなことになったの!?という理不尽な怒り。それをぶつける相手は夫しかいない。

私も現実逃避ではないけど、やらなきゃいけないタスクを淡々とこなすときに頭の中で妄想に浸ることがあるけれど、最近その境界が曖昧になる。過去の思い出(実際にあった出来事)を反芻することと、妄想(実際には存在しない虚構の出来事)を頭の中で繰り広げること、両方とも今現在進行形で私自身が体験しているわけではないのはどちらも同じ。それなら、どちらも頭の中で繰り広げられている映像はそれが過去の思い出でも妄想の虚構世界でも何が違うのかと。妄想も過去の記憶も、現在進行形の現実ではない、という点では同じ。辛い現実を忘れる為に妄想世界に逃避する、そしてなんとか日々をやり過ごす。

夫と幼い子供2人を雪山で亡くしたひとりの女性の物語。
心象風景と妄想世界、過去の出来事、そして現在。現実と虚構の世界が入り交じる一見支離滅裂なストーリー。

ほんとはもっととてつもない展開の映画なんじゃないかって期待したけど、自分の想像の範囲を越えない物語でちょっと拍子抜けした。でも、もし私も大切な人を突然亡くしたら一番最初に思い出す映画はこれかもしれない。
Niylah

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