efnさんの映画レビュー・感想・評価

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悪は存在しない(2023年製作の映画)

4.0

 逆トトロ。自然が主題なのにえらい殺意のある映画で驚いた。刺々しい枝木、鹿の骸骨、うずたかく盛った糞から立ち上る湯気。共犯関係にある人間の薪割も切られる側(ローアングル)からはじめるという徹底振り。>>続きを読む

カリスマ(1999年製作の映画)

4.2

 黒沢版マタンゴ。99年にこの題名をつけているのだからオウムの事が頭になかったはずはないんだけど、あえて優生主義と(功利的)平等主義の対比に持ち込んでいるあたり先進的だった。(思想を超えてカリスマが力>>続きを読む

散歩する侵略者(2017年製作の映画)

3.1

 車が行き交う道路のど真ん中を歩く(ルイマルの引用?)とか警官をワンテイクでバンバン撃ってる間はいいけど、会話をはじめると知能がグッと下がる。
 概念の収奪とか大仰な設定なのに、やってることは台詞で出
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ダゲレオタイプの女(2016年製作の映画)

4.2

 黒沢の無機質な導演が幽霊絡みのモチーフにピッタリはまっていてかなり良かった。人間らしさがないから幽霊化前後の境界がいい感じに曖昧。拘束器具による固定→筋弛緩剤効果による人形化はそのままは窓辺に立つ幽>>続きを読む

ベロニカ・フォスのあこがれ(1982年製作の映画)

3.9

 ナチの残滓が戦後の映画界で薬漬にされて砕け散る、という芸能が抱える業がカリガリスタイルで示されていてかなり見ごたえがあった。
 女優から見て観客がダッチアングルでグラグラ揺れるショットをはじめて観た
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さすらい(1975年製作の映画)

3.7

 相変わらず縦横の移動から回り込むカメラは楽しいし、影絵や鏡を通したミニポルノ上映も好きではある。髭を剃る画からカメラが上に移動してパンしながら川面に突っ込む車を追うヤツとか洒落てる。
 しかし、ヴィ
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ベルリン・天使の詩 4K レストア版(1987年製作の映画)

3.8

 無垢な子ども、愛し合う恋人たち、離婚寸前の夫婦、分解気味の家族、失業、自殺、ベルリン市街戦、そういった人間の悪意をも天使は羨望の眼差しで観る。パンで図書館の日常をぐるっと見渡したかと思えば、唐突にア>>続きを読む

裁かるゝジャンヌ(1928年製作の映画)

4.1

 涙を流すジャンヌ→怒り青筋を立て審問官の切り返し..から一気にカメラが後退してズラッと教会の高官がズラッと並ぶさまは圧巻。クローズアップ、クローズアップ、クローズアップの連続なんだけど、カットバック>>続きを読む

第七の封印(1956年製作の映画)

3.9

 主題のとおりにきちんと女の子は火刑に処されるし感染者が死ぬ瞬間も撮っていて刺激が強い。教会も不安を怒鳴り散らして煽りまくる。
 ただそこから黒死病と教会を分離せず信仰と救済の問題に持っていくあたりは
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過去のない男(2002年製作の映画)

4.0

 まさかのカウリスマキ版どですかでん、ルンペンもの。
 社会保障番号=管理社会と産廃でできた小屋=貧困街の対比が印象的だった。日本や米ではスラムの自給自足を強調しがちだけど、この作品は社会復帰しように
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街のあかり(2006年製作の映画)

3.8

 演出はホラーで脚本はフィルムノワール(ファムファタール)。色彩を抑えて視線に振ってるのがけっこう好みだった。
 特に職場や酒場で孤立してる際の視線一致と失職&冤罪ふっかけられた主人公を蔑むような目。
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浮き雲(1996年製作の映画)

3.8

 酔っ払いが盃を煽る瞬間や拳を振り下ろす動作といった感情を誘導する運動を可能な限り排除しているのがいい。過度な表現がないから新オーナーのふてぶてしさや職安の嫌らしい態度が作品を負の方に引っ張っていって>>続きを読む

マッチ工場の少女(1990年製作の映画)

4.0

 機能不全家族の娘が親に歯向かって"赤い"ドレスを買って置きながら、全く成長しないのがらしくない。逆に男に引っ掛けられて孕まされて、酒と煙草の味を覚えるきっかけになっている。
 冒頭のウォッカを注ぐ動
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真夜中の虹(1988年製作の映画)

3.9

 カウリスマキは三原色を差し色にする癖があんまり好きではないんだけど、これはそれを逆手に取った色の使い方をしていてかなり好きだった。
 定石どおりに赤い服を着た女は男とつきあうためにその場に帽子を脱ぎ
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コントラクト・キラー(1990年製作の映画)

3.9

 淡い緑色の職場で仕事をして解雇されて、黄色い殺し屋に自死を頼んだけど赤い口紅の女に救われる、色だけに注目しても面白い。(食堂で社員から距離を置いて食ってるレオの孤独感よ)
 主演がジャンピエールレオ
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逃げ去る恋(1978年製作の映画)

3.7

 家族から手を回すな、絶望の押し売りをやめろ等々言われながら、結局ストーカーで終ってしまった。ドワネルの欠点を論っているようでそうではないし、彼の不安の穴埋めに利用された女も報われない。というかEDで>>続きを読む

家庭(1970年製作の映画)

3.9

 右往左往しながら買い物をする脚からはじまる第4作。居場所を見つけたせいかパリのアパートのロングショットは消えている。
 優柔不断だったレオも安定...してなくて相変わらずだらしがない。むしろ結婚して
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夜霧の恋人たち(1968年製作の映画)

3.8

 浮気の現場に巻き込まれても下手っぴな尾行で失敗してもまぁトリュフォーが撮ったレオが観れるならええか、になる。ドワネルの中でもかなり好み。
 あとレオを誘うデルフィーヌがえらい綺麗。ソフトフォーカスか
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二十歳の恋(1962年製作の映画)

3.8

 付き合ってもいない女の子のために引っ越したり映画館で滅茶苦茶距離を詰める文系恋愛仕草ってこの頃からあるんだ。
 本命の彼氏を目の当たりにした両親も辛い。そりゃ煙草も吸いたくなる。ただ、わざわざ囲むよ
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大人は判ってくれない(1959年製作の映画)

3.8

 仏映画で子どもが主人公の作品というとわんぱく戦争を思い出すけど、粗削りで田舎っぽいイヴロベールに対してトリュフォーのこれは如何にも都会らしくスマート。機能不全家族が主題なのにどこまでも美しい。
 そ
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アンダーグラウンド 4K デジタルリマスター版(1995年製作の映画)

4.2

 ユーゴの風刺映画だし銃器や民族を模したものが色々出てくるんだろうな、と思い構えていたら開始三十分でフェリーニとアンゲロプロスが出てきて、そのあとはただただ圧倒されっぱなしだった。すごすぎる。
 基本
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大理石の男(1977年製作の映画)

4.1

 全体主義映画の傑作。もうこの作品がかつてあった全体主義社会の存在証明になっている。
 メタな状況を含めるとワイダを取巻く映画の公開を妨害する勢力(現実)、ワルシャワでフィルムを差し押さえたワルシャワ
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善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)

4.1

 盗聴映画なのでコッポラと同じくヘッドホンをかけたおじさんをどう撮るか、という問題に向き合わないといけないんだけど、そこを全体主義の物量で乗り切ってるのが面白かった。盗聴するにも団体が直接乗り込んでコ>>続きを読む

二つの世界の男(1953年製作の映画)

3.8

 車輪にこだわった表現が多い。いちいち自転車を漕いで情報を上にあげる見張りの少年、女の子を誘拐するためにスライドドアを開けてずずっ迫ってくる車、こぐ、はしる、という動きが二足歩行とは違う雰囲気を醸し出>>続きを読む

第三の男(1949年製作の映画)

3.9

 観覧車と風船の映画。ダッチアングルの使いすぎで全体の画面はけっこうだれてるけど、全焦点の大観覧車とフィルムノワールに突如迷い込んだような風船の詩情が全体を底上げしてる。迷作一歩手前でどうにか傑作に上>>続きを読む

黒い罠(1958年製作の映画)

4.0

 カメラワークカルト映画。逆光仰視の怪しげなショットに時折鍵になるロングテイクが挿入されることで全体の編集意図がわかる奇妙奇天烈な映画。後に証拠捏造に使われる空箱、警部の「目を離すな」の言葉通りにつき>>続きを読む

市民ケーン(1941年製作の映画)

4.1

 バザンはワンフレームでリアリティがどうこう言ってたけど、現実感どうこうより演出強度の方が勝ってるように思う。
 パンフォーカスは確かにすごい。が、それは窓越しの幼少期のケーンからトラックアウトして遺
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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(2007年製作の映画)

4.2

 コンポジションとカッティングの妙。ダニエルの「うちは家族経営でやってる」からの斜めパンから息子の表情、イーライの「神を讃えよ」の際のクローズアップ→ロングショット。何れも被写体はダニエルとイーライに>>続きを読む

デューン 砂の惑星PART2(2024年製作の映画)

3.6

 序盤の砂丘を登る際の等速運動でそのまま宙に浮いて岩山に達する奴と砂虫に飛び乗る際のワンテイクが好き。砂で画面が埋まるからショットのつなぎが自然だった。あと崖から落ちてくる死体もよかったな。着地点を誤>>続きを読む

ほかげ(2023年製作の映画)

4.1

このレビューはネタバレを含みます

 孤児の社会的立ち居地を巧みに物語に落としこんでいる。娼婦と復員兵の擬似家族、内地に帰還した兵隊のお礼参りのお手伝い。最初に義父となった復員兵の弱さ、心の傷が上官への復讐譚の動機付けになる構成もうまい>>続きを読む

野火(2014年製作の映画)

4.1

 ここまで南方戦線の地獄を映画に落とし込んだ作品を他に見たことがない。蒸し暑く臭うような熱帯雨林、日光で灼熱地獄と化した丘。蛆に食われるがままになっている落伍兵たち……。密林をゆく兵隊たちも誰も彼もが>>続きを読む

スパイの妻(2020年製作の映画)

4.1

 裏返しのCURE、あるいはカリスマ。大日本帝国でサイコサスペンスを展開すればどうなるか、という映画なのだけれどサイコなことは何も起こらない。そして起こらないから面白い。
 それは当然のことで、大日本
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千年女優(2001年製作の映画)

4.5

 編集の見本市。トラッキングで走り出したかと思えば少女を被写体にマッチグラフィック、転げたかと思えばマッチアクションで別の時代へ状況へ。映画から映画へと跳躍していくが、すべてが編集でつながっている。>>続きを読む

この世界の(さらにいくつもの)片隅に(2019年製作の映画)

3.8

 りんの周辺を掘り下げているので人間関係や日常は通常版より密度が高い。のだけれど、編集や主題がやや混乱気味になっていた。特にりんの存在は大きくて、全体の記憶の問題(江波の兎波、右手の喪失と記憶の錯綜)>>続きを読む

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)

3.7

 横溝のおぞましいものを詰め込んで怪奇映画に仕立て上げるぞ、という意気込みは気に入ったし、大本の引用元であろう犬神家の当主がホーエンハイム化するなんて無茶な展開も楽しくはあった。のだが、どうしても説明>>続きを読む

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)

1.0

このレビューはネタバレを含みます

 上からかぶりついて投げ出すやつと背びれが小舟を追いかけるやつ、あと銀座で群衆を踏み潰すやつはよかった。ワンフレームで長回しとまではいかないが時間もとってある。映画らしい面白さがあった。(それすらスピ>>続きを読む

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