うえびん

ボイリング・ポイント/沸騰のうえびんのレビュー・感想・評価

3.8
料理長はつらいよ

2021年 イギリス作品

90分間、全編ワンショット、ノー編集、ノーCGの映像は、臨場感が抜群。主人公のアンディの目の回るような忙しさを追体験させられた。ピリピリした場の空気感、ギスギスした人間関係、ひやひやする出来事に、息つく暇がない。

厨房スタッフとフロアスタッフ、白人と黒人、使用者と労働者、男と女と性的マイノリティ、HACCP(ハサップ)の監査人と監査対象者、お客様とサービス提供者。とにかく、ありとあらゆる人間関係にまつわる問題が、これでもかと散りばめられていて、それがオーナーシェフのアンディひとりの肩にのしかかってくる。

舞台はロンドン、クリスマスイブ前の夜の高級レストランなんだけれど、優雅でゆったりした時間は1秒も無い。

食材の仕入れ、自ら行う調理、厨房スタッフへの調理指示、フロアスタッフと厨房スタッフの対立の仲介、メンタル不調なスタッフへの気遣い、勤務態度の悪いスタッフへの指導、客のトラブルへの対応…。プレイングマネージャーのアンディ一人ではとてもじゃないけど身が持たない。

僕も自らの経験上、マネージャーになってから何度か、自分一人では身がもたないと、身も心もへとへとに疲れ切ってしまったことがあるので、アンディの身の上に痛く共感して苦しくなってしまった。仕事と他人のことで頭がいっぱいで、自分や家族のことを考える暇がない。そうなると、アンディのような逃げ方も致し方ないかと思えてしまう。

「組織の成功循環モデル」(ダニエル・キム)では、組織の状態を流動的にとらえた、よりよい組織を生み出すフレームが提唱されている。

①関係の質→②思考の質→③行動の質→➃結果の質

アンディたちのチーム(組織)は、仕事の結果の質が悪くなり、ますますチームメンバーの関係の質が悪くなり、それでもって各人の思考がネガティブになり、チームの行動の質が低下するといったバッドサイクルに陥ってしまった。まずは、関係の質の改善、少し自分の言動を省み始めたフロアマネージャーのベスとの対話から、グッドサイクルを目指してゆけたらいいなと思う。
うえびん

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