アキラナウェイ

愛すべき夫妻の秘密のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

愛すべき夫妻の秘密(2021年製作の映画)
4.4
Filmarksの平均スコアは振るわないけど、個人的にはかなり面白くて、アカデミー賞ノミネート群の中では結構好きな作品。

監督・脚本は「モリーズ・ゲーム」、「シカゴ7裁判」のアーロン・ソーキン。この方、脚本賞の受賞歴が多く、実際本作の脚本も機知に富み、皮肉を含み、非常に濃厚な会話劇にすっかり魅了されてしまった。

1950年代にアメリカで放送された人気シットコム「アイ・ラブ・ルーシー」で主人公のリカード夫妻を演じた、実生活でも夫婦だったルシル・ボールとデジ・アーナズの関係を描いた伝記ドラマ。

6,000万人の視聴者をテレビに釘付けにさせた人気ドラマの主演女優ルシル(ニコール・キッドマン)とその夫デジ(ハビエル・バルデム)と番組の脚本スタッフは、人気絶頂を迎えた番組の裏側で大変な事態に巻き込まれていた。デジの不倫疑惑がマスコミに発覚したのと同時に、ルシルに共産主義者の疑いが持たれてしまったのである—— 。

圧巻は主演のお2人の演技力。

最近は特殊メイクでの登場が多くなったニコール・キッドマン。今回も、実在したルシルそっくりに仕立てたメイクに先ずビックリ。次に驚いたのが少しハスキーにしゃがれた、その声。抑揚、トーン、リズム。それらはまさにシットコム・ドラマの女優そのもの。

そして、ハビエル・バルデムが陽気で愛らしい笑顔で、ルシルの夫デジを好演。「ノーカントリー」で冷徹なシリアルキラーを演じ、強烈なインパクトを残した彼の顔面が怖くて、個人的には1番苦手だった俳優だけど、本作でイメージは一変。

素晴らしい。
もう、バルデム怖くない。

ルシルの共産党員疑惑が持ち上がった波乱の1週間。

現代と過去(1950年代)と回想、更にテレビの表と裏側。時間と空間を軽妙に行き来しながら描く演出が実に見事で飽きさせない。

ドラマ作りの一環として、どういった演出で観客に見せるのかを真剣に取り組む、主演女優としてのルシルの姿も印象的。

元ネタを知らないと楽しめないという声も多数見られるし、僕も元ネタは全く知らずに臨んだものの、そんなの全くお構いなしに面白いのは、やはりアーロン・ソーキンの脚本力に因るものか。

勝ち気で鼻持ちならないルシルの性格の中に、一途に夫を愛する気持ちが見え隠れ。

だからこそ、ラストが何とも世知辛い。

擦れ違い気味の夫婦の関係を、毒っ気と外連味を混ぜ合わせたウィットな会話の応酬で魅せる本作。それはまさにテレビドラマに夢中になった後、不意に現実に引き戻される様な喪失感に似た、気分のアップダウンを観客に追体験させてくれる。

敷居が高いと感じてしまうのは否めないが、演劇や会話劇が好きな方にはハマるかも。