椿本力三郎

デリシュ!の椿本力三郎のレビュー・感想・評価

デリシュ!(2021年製作の映画)
3.9
貴族のものであった「美食」を「レストラン」という場を発明して一般大衆に広げた料理人のストーリー。まさに革命前夜のフランスの空気感がそこに凝縮されたような印象がある。レストランとは革命の象徴なのだ。

美食は身体の健康だけでなく、心の健康にもつながる芸術である。
貴族がそれを自らの権威付けのために独占したくなるのはわからないでもない。それだけ魅力的な対象、総合芸術だからだ。
だからこそ、そこには権謀術数やそれぞれの人間の欲望やプライドが濃密に交差することになる。

ラストシーンの特別な会食において、一般大衆が貴族に向ける視線がこの作品のすべてを物語っているようだ。
もちろん、作中で登場する料理はいずれもジューシーなのだが、
しかし、そこに力点が置かれていないのは、
この作品はレストランや料理そのものを描きたいのではなく、
レストランを通して「権力のあり方、旧体制の崩壊」を描きたかったからだろう。
復讐にも恋愛の要素を入れて受け取りやすくしているのも
映画的な演出の一つとして好感した(いかにもフランス映画っぽい)
バランスの良い作品だと思う。