本好きなおじぃ

オッペンハイマーの本好きなおじぃのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.4
理論物理学者、ロバート・オッペンハイマーが、研究の世界から原爆の開発の中心人物としての盛衰を描いた物語。
なぜクリストファー・ノーラン監督が描こうとしたのか。純粋な伝記であれば描く必要もない、そう思っていた。
実際に映画を観たら違った。
実に伝記映画だ。
この映画の裏話のネット記事やパンフレットをまだ読んでいないが、オッペンハイマーの盛衰もそうだし、その中で描かれるアメリカの政治や第二次世界大戦で登場する国々の判断が、現実にあった者として描かれる。

物理学を専攻するオッペンハイマーは、実験科目が苦手でいた。そんな中、理論物理を教えるボーアと出会い、やがて教壇に立つようになる。
各国できな臭い状況がじわじわと広がる中で、他国で原子を破壊することによりエネルギーが生み出されることがわかり、競い合うように開発をすすめていくのだが、オッペンハイマーは理論では不可能だ、と考えあまり真剣に捉えなかった。
アメリカでも開発の機運が高まる中で、オッペンハイマーはグローブス准将とともに、ロスアラモスでのマンハッタン計画の中心人物となる。
オッペンハイマーは、各地の研究者をスカウトし、共に議論していく。その中には離反するものもいた。
やがてオッペンハイマーは、この計画が、人類の戦争を止めることにはなるが、強大な力をつけはじめたソ連とともに軍拡競争がはじまることを懸念し、さらに水爆研究に踏み込もうとすることはなかった。
オッペンハイマーは、どのように考え、行動し、最終的に広島や長崎のような悲惨な事態を生む「原子力爆弾」の開発へ至ったのだろうか。


この映画は、簡単に言うならば、オッペンハイマーの研究にささげ、軍拡を嫌った人生を、過去と現在の自分を重ね合わせながら、――――その手法としてノーランのいつも使う手法が役に立つのだが、自信の想いや意見の揺らぎを、妻(エミリーブラントの、ヒステリックなのだが夫思いの演技がとても好きだ、ひとめぼれ)や様々な協力者との議論を通して見せてくれている。
また、研究者が開発したものが資本や政治によって利用されるということも、わかりやすく描かれる。

もう一つ、注目したいのは音と映像だ。
映画だから当たり前だ、と言われるかもしれないが・・・
先に見た友人は、「音」だと言ってた。
この映画の中では、オッペンハイマーが、物理の海の中で、あるいはプレッシャーの中で、などあらゆる場面で聞こえるはずのない何かの音を聞かせてくる。ぞくっとする。
そしてわたしは、「映像」だと思った。
よく、太陽の拡大画像でフレアが爆ぜる映像がある。そのときのように、思わず、きれいだ、と思ってしまった。不謹慎には違いないが、思ったことは事実だ。同時に、そのきれいなものが、あるいは汗と涙の結晶が、多くの日本人を傷つけたのだからやるせない。

なお、広島や長崎についての描写は多くはないが、かなり慎重に扱っているように思えるし、むしろアメリカが日本へどう行動したのかをとてもよく印象づける内容になっていたのではないかと思う。

オッペンハイマーは、好きで原爆を開発したのだろうか?
研究自体は好きだったのかもしれないが、彼は理論屋だということも忘れてはならない。
真実はどこにあるのか。わたしたちはこの映画を見て、どう感じ、考えるべきか。答えはオッペンハイマーが持っているかもしれないし、わたしたちもその答えを持たなければならない、そういう時代に生きているのかもしれない。