本好きなおじぃ

愛欲のセラピーの本好きなおじぃのレビュー・感想・評価

愛欲のセラピー(2019年製作の映画)
3.0
精神科医のシビル(ヴィルジニー・エフィラ)はたくさん患者もついていたのだが、作家に戻るため仕事を辞めることにする。しかし、1人だけ、女優のマルゴ(アデル・エグザルコプロス)だけは、別の医師へ担当を変更することができず、その後もカウンセリングを継続することに。
マルゴからはイゴール(ギャスパー・ウリエル)の子供を身ごもってしまったと告げられる。マルゴのカウンセリングをしていろいろと聞いているうちに、マルゴから聞いたセックスの話をふと思い出し、ガブリエル(ニールス・シュネデール)との情事を想像してしまう。そして、別れた後生んだ子供や彼の発言も。

その後すぐ、イゴールと同じ撮影でマルゴが島へこもることになり反対するが、結局クルーたちの求めでマルゴを補助しに同じ島へ行くことになったシビル。監督のミカ(ザンドラ・ヒュラー)はイゴールとマルゴの関係にも気づいていたが、ミカもまたイゴールと恋仲であった――――

シビルが精神科医や母親として過ごしているシーンと裏腹に、精神科医としての顔の裏面に自らもカウンセリングを受ける場に座る姿があるなど、とてもシビルの内面や私生活は不安定だ。
そこに、小説の執筆も加わるが、さらにマルゴの会話から影響を受けて一時の情事を思い出しているシーンがあり、心のよりどころとしての側面が強くなっていくことがわかる。
マルゴを観察することで、小説の執筆のネタの他に、情事のイメージを沸かせているように見える。とても悪魔的で、しかも島という閉鎖空間でさらなる間違いが起こらないとも限らない。そんな状況にさらされ続けたらどうなるのか。
人間の弱さとそれを救うのは何なのか。それはきれいごとではなく、この映画で描かれるような生々しい人間と人間とのつながりあいなのだろうと思った。この映画で描かれるのは官能的なことが中心だが、マルゴを精神的に支えているシビルの関係もそれに似ている。

この映画をきっかけに、ザンドラ・ヒュラーが主人公の作品を書き生まれた、「落下の解剖学」。そうジュスティーヌ・トリエは語っている。
それと同じくジュスティーヌ・トリエとアルチュール・アラリの実生活上のパートナーコンビが手掛けている作品でもある。
時系列を乱し我々をいささか混乱に陥れながら、しかしシビルの内面の変化をトレースする、あるいはシビルにそう動いてと促しているように、マルゴやミカを動かしていくような演出だと感じ、もしそうだとしたら見事だと思った。