コータ

オッペンハイマーのコータのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.3
オッペンハイマーの矛盾と二面性を描いた作品として見応えがあった。3時間の長さを必要とするだけのドラマ性が詰まった作品となっていた。

180分の長尺である本作は大きく3幕構成になっている。マンハッタン計画の以前・以後にかなりの尺を割いている構成には驚かされたが、だからこその3時間尺であり、だからこその伝記映画としての見応えが用意されている。

技術面において非常に優れた本作。とりわけ素晴らしいのがサウンドで、サウンド表現の激しさ/繊細さを存分に体感するためにも是非とも映画館で鑑賞したい一本となっている。
感情表現としてのサウンドとイメージ映像。繊細な轟音と量子の束の波の映像で、彼の心の内宇宙を表現している。
過去に『インターステラー』などで見られた映像に近いものだが、量子世界という目に見えない隠されし宇宙の世界を表現してみせた点に本作の面白さがあったと思う。

本作はこれまでのノーラン作品では見られなかった表現にも挑戦している。日本でR-15指定を受けた理由もおそらくそれに関連している。なんとも強く印象的なその場面は2回にわたって登場する。1回目はあまりの不自然さに思わず苦笑してしまったものの、2回目がすごくまあ面白いシーンになっていた。あの場面を演出するためなら、R-15指定など大した痛手ではないだろうと思える。

役者ではキリアン・マーフィは勿論として、マット・デイモンの演技がすごく良かった。マット・デイモン演じる人物は軍のお偉いさんで、マンハッタン計画の中心人物の1人だ。マット・デイモンではなくロバート・ダウニー・Jr.が各映画賞を席巻した理由として、ひとつは話題性、もうひとつは戦後のオッペンハイマーの歩みと彼演じる人物が深く関わってくるという構成上のキャラクターの立ち位置の違いが考えられる。
やはり本作の評価ポイントは、オッペンハイマーの戦前・戦時中・戦後をしっかりと描いてみせた点にあるのだろう。

SF娯楽大作で数多のメガヒットを手掛けてきた監督が、実在の人物を描いた作品に満を持して挑み、めでたく巨匠の仲間入りを果たしたという意味では、ノーラン版『シンドラーのリスト』ともいえる本作。
ただでさえ日本公開が8ヶ月以上遅れているのもそうだし、あの腹の奥にまで響く轟音を体感してみるためにも、ぜひ映画館で!
コータ

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