"…承知です…"

妻に先立たれ、痛い程の寂しさに苛まれ、耐え難い孤独に押し潰されそうになっていた茂雄の目に止まったのは…

"茶飲み友達、募集"

と書かれた新聞の三行広告…

"お客様には、高級茶葉で淹れたお茶をお買い求めになって頂くだけです…"

"ティー・フレンド"の代表マナの言葉に思わず"玉露コース"をお願いする茂雄…

かなりの高評価であった本作を鑑賞…どうにも居た堪れない…そんな印象を持ちました。

しきりに"ファミリー"を強調する主人公マナのセリフ一つ一つには、孤独な老人に寄り添い、妙な説得力がある反面、結局は売春の斡旋といういかがわしさ…そう言った胡散臭さを上手く演じた岡本玲の演技は素晴らしいです。

茂雄がエプロンをつけて欲しいとリクエストした際、"オプションは別料金"と割り切って断る松子の姿は、本作の本質をついているようで…

孤独に寄り添ったとしても、それは一時の"かりそめ"の関係…擬似家族のようであった仲間達も呆気なくその関係性は壊れてしまう…

でも例え"かりそめ"であったとしても、確かに心が満たされていた訳で…渡辺哲が演じる茂雄がティー・ガールズとの逢瀬で生き生きとしてくる様子からの落胆に残酷なモノを感じたのです。

実際に摘発された事件が元となっていますが、経営者側を若者に変更する事によって、老人だけでなく若者が抱える寂しさや孤独も描かれ、今の社会が抱える闇をより深く考えさせられる秀作です。

私個人的には、繰り返される"承知です。"の言葉に、マナをはじめとする経営側のキナ臭さと漠然とした怖さを感じてしまいました…凄い作品です…

『茶飲友達』
映倫区分 PG12
製作年 2022年。上映時間 135分。
外山文治監督が、2013年10月に高齢者売春クラブが摘発された事件を元に、超高齢化社会の現代日本が抱える閉塞感や寂しさなど、さまざまな問題を反映して描いた群像ドラマ。
マナ役を岡本玲が演じる。

佐々木マナは、仲間とともに高齢者専門の売春クラブ『茶飲友達（ティー・フレンド）』を設立し、新聞に掲載した『茶飲友達、募集。』の三行広告で集まってきた男性たちのもとへ高齢女性を派遣するビジネスをスタートする。
『ティー・ガール』と称される在籍女性の中には、介護生活に疲れた女性、ギャンブルに依存した女性などさまざまな事情を抱える者がいた。
マナのもとで『茶飲友達』を運営する若者たちもまた、出口の見えない社会で閉塞感を抱えて生きている。
さまざまな世代を束ねるマナは、彼らを『ファミリー』と呼び、擬似家族のような絆を育んでいくが……。

外山文治が最新作で高齢者の世界を探求することを選んだことは、驚くべきことではない。
彼の短編映画『此の岸のこと』（2010年）、『燦燦-さんさん』（2013年）、そして『春なれや』（2016年）は、それぞれ社会のフィールドにおける高齢者の位置づけを探求してきた。
せや、彼の最新作は、単に触れたテーマに立ち戻るものではない。
むしろ、今日に至るまでタブー視されていること、つまり高齢者のセクシュアリティを探求する機会を得たと云える。
今作品の冒頭のシークエンスは、日本の高齢者の間で最も重要な社会的葛藤を、かなり直接的な方法で明らかにしている。
すなわち、社会的な結びつきが強まるダイナミックな動きの中で高齢者主体がますます孤立していくこと、社会的な結びつきの枯渇によって引き起こされる孤独感、そして日本の年金制度の不十分さが見える。
外山監督は、高齢者の精神に影響を与えるこれらの要素に焦点を当てるだけでなく、高齢者の葛藤を悪化させる媒介的な要因として、働く主体によって支えられている社会的フィールドに残る幻想的な観念を紹介している。
作中、チャラチャラした若者キャラたちから見れば、高齢者は社会の場にとって何の役にも立たない存在であり、国から金をむしり取り、（性的）快楽に溺れるために税金を使うお荷物でしかない。
本来は、この平和ボケできる太平な日本を作ってくれた尊い存在なのに。
このような先入観が深いファンタスマティックなものであることは、老人の平凡な生活を象徴する空虚さと、若者の否定的な記号との対比によって浮き彫りにされている。
このようなファンタスマティックな観念は、単に楽しみを奪われたと感じる主体と、それを手にしたはずの高齢の他者との間に距離を作るだけでなく、高齢の他者に対して、彼の主観的な声を消し去り、社会的な場である他者の中での彼の闘争を消し去るような記号化を強いるのである。
主人公のマナを通して、観てる側は、高齢の主体が社会の場における自分の機能の喪失と闘っていることを理解することができる。
年を経るにつれて、高齢の主体は、無数のアイデンティティ（例えば、夫、リーマンなどなど）が徐々に薄くなり、自分の主観的な位置の社会的フレームが弱まっていくのを目の当たりにする。 尊敬すべき過去にしがみつき、そのようなファンタジーによって自らを安定させることに成功する高齢の主体がいる一方で、新たな目的を持って無の深淵を閉じようともがく主体もいる。
高齢の主体が役に立たないことを嘆く作中のクソガキが見ようとしないのは、社会の場が高齢の主体の葛藤に対処できていないことである。
マナの運営するサービスは、利益のために社会的他者の失敗を利用してはいるが、高齢者対象に新しい機能を提供し、彷徨う高齢者対象に親密なつながりの感覚を与えている。
間違った運営ではあるが。
高齢者の孤立化がもたらす影響は、さまざまな心理的問題を引き起こす。
作中、松子婆さん（磯野真喜さんには失礼ながら）の軌跡を通して、高齢者の自殺衝動の存在に触れる。
また、加代婆さんのように、パチンコやその他のギャンブルに溺れることで、荒涼とした孤独感を消そうとする高齢者もいる。
高齢者の苦闘は、若い人たちが直面する問題と対比的に描かれている。
例えば、妊娠が発覚した千夏（海沼未羽）は、結婚した恋人に『責任は取らない』と冷たく云い放たれる。
彼女を通して、観てる側は日本社会のフィールドに潜むシングルマザーに対する先入観のようなものを把握できるだけでなく、必要とされる対象に対処する際に政府という他者を示す不本意さも感じ取ることができる。
タクミの軌跡を通して、外山監督は、子供が親をどう見るか、一般的に失敗という要素に特徴づけられるイメージと、社会的他者が親をどう見るかの間に存在する歴然とした差異を探求する。
物語の筋は、長年にわたって築き上げた年老いた親のイメージを再調査し、再評価することの重要性を強調しているんかな。
今作品は、さまざまな主観的・対人的葛藤に触れているため、最初はバラバラに感じられるかもしれないが、物語全体を構成し、無数の物語を流れるように結びつけるアイデアがある。
物語のほぼすべてが、対象の決断と症状の解決は、親である他者に向けられた幻影的な反応に過ぎないという事実に帰結する。
云い換えりゃ、今作品は、フロイト的な方法で、親の他者が主体の論理の中で、つまり彼の行為とシニフィエの中で反響し続けていることを示している。
蛇足ながら、シニフィエてのは、ある言葉を聞いたときにイメージする概念を指します。
たとえば、ネズミちゅうという言葉自体がシニフィアンと云い、『ネズミ』という音を聞いた時に頭に浮かぶイメージがシニフィエ。
今作品の構図は、静的なショットと動的なショットを流動的に混ぜ合わせている。
構図にドキュメンタリーの風味を与えることで、彼の物語が実際の出来事から着想を得ているという事実を単に強調するだけでなく、演技を補強し、物語の感情の流れを強めるのに役立つ自然主義の感覚を物語に付加している。 
今作品は、社会の現場と高齢者の主体との間にある根本的な不一致を、監督なりの方法で究明している。
外山監督は、単に社会が孤立や孤独の問題に対処できていないことに触れるだけでなく、若者が高齢者対象に対して持つ言説が、隠された現代の社会的ドラマをいかに悪化させているかを明らかにしている。
彼の高齢者に対する攻撃は極めて偽善的である。なぜなら、彼は売春ビジネスの一員であり、金銭的利益のために高齢者の孤独（社会的、身体的）を利用しているからである。
彼は、暴力的な先入観のために認めようとしない社会問題を利用していると云える。
また、社会的、経済的負担であるだけでなく、高齢の対象者は、その子供たちの多くからも社会的負担とみなされている。
そのような対象者は、子供としての責任から逃げ出すだけでなく、最後の『優しさ』として見捨てることを認める。
フィナーレは、他者が最終的に（高齢の）主体に対して不利に働くように構成されていることを示している。
ルールという記号は、他者という幻影的な一貫性を維持し、主体性に破壊的な影響を及ぼすことをあえて示すような破廉恥な行為を押しつぶすために利用されているにすぎない。
社会的な場は、主体の闘争を生み出すが、幻想的な他者の正しさを信じることによって、その影響に気づかないままである。
フィナーレはさらに、社会の調和という繕われたイメージを維持し、修復するために、茶友というシステムとその管理者の意図を意図的に犯罪化することができることを痛切に明らかにする。
家族ちゅうシニフィエがマナにとって重要なのは、物語が暗示しているように、彼女と彼女の母親との間の継続的な対立、つまり家族構造を破壊する対立の機能である。
このシニフィエの重要性は、物語のフィナーレで明確に浮き彫りにされる。
フィナーレは、家族は経済的に築き上げられるのかという問いに対する答えを提示する。
正直、役者陣の演技力は誉められたもんじゃないかも知れへんけど、個人的には考えさせられる映画でした。

ジャケ写はパッと見、おしゃれなフランス映画だが、よく見ると分かる。
「茶飲友達」、実は日本を舞台にした老人売春の映画なのだ。と言ってもこの老人売春を一つのネタにして、現代日本の超高齢社会における家族、人との繋がり、孤独を描いた作品だ。

実話だそうだ。

2013年10月、高齢者売春クラブが警視庁に摘発された。クラブの会員数男性1000名、女性350名、最高齢は88歳。まさに超高齢化社会の日本がかかえる老人の孤独死、介護問題、おひとりさま問題などの不安が反映された事件―――

主人公のマナ（岡本怜）は家族の繋がりがなくなり、風俗嬢として社会を一人彷徨う。社会は高齢化によって孤独に生きる人が溢れている。いつのまにかマナはその人達と売春を一つの繋がりにティーフレンドという擬似家族を作っていく。そうすることで、自分の心の穴埋めることに成功したかに見えたが、ある事件がきっかけとなり、脆くもそれは崩壊する。
取り調べ対しマナが答える。
「社会のルールとか常識とかから落っこちる人もいるのだよ。
みんな寂しいんだよ。
正しいことが幸せじゃないでしょう！」

これに対し取調官は
「寂しかったのはあんたのほうでしょう？、そんなことして虚しくなかった？ファミリーとか言って、馬鹿じゃないの
自分の寂しさを他人の孤独で埋めるじゃないよ」
と切り返す。

このやりとりの後、面会に来た母親に対しマナが言う
「何んできたの」
「家族でしょう」
「家族って何？」

なぜこの会話になるのか、この経緯は映画を観るしかない。

これが観客に対する監督のメッセージだ。
私達は考えなければならない。

今の日本社会において、家族とか何か？


No.1507 2023-539
2022年　監督: 外山文治

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