幽斎

ユー・アー・ノット・マイ・マザーの幽斎のレビュー・感想・評価

3.8
リヴァイバルの兆し「フォーク・スリラー」新たな亜種登場。ダブリン国際映画祭ディスカバリー賞、未体験ゾーンの映画たち2023。惜しまれ乍ら閉館された京都のミニシアター、京都みなみ会館で鑑賞。長い間、ありがとうございました。

※Filmarksさんよ、あらすじのCharは日本読みではチャーだが、アイルランド語でもイングランド語でも発音は「シャー」が正解。実に恥ずかしい醜態。

民間伝承をテーマとしたフォーク・スリラーの金字塔「ウィッカーマン」、現代風に宗教色を強めたフェスティヴァル・スリラーの傑作レビュー済「ミッドサマー」。不気味なムードで精神を削る描写は、レビュー済「LAMB ラム」更にレビュー済「MEN 同じ顔の男たち」単細胞に怖がらせるホラーで無く、監督のレトリックを考察するモダン・スリラーを加味した作品も増え、ジャンルは活況を呈した。都市伝説がヤリ尽され枯渇した代わりに、不穏な空気が観客の神経も擦り減らして逝く。

Kate Dolan監督(美人)は、美術スタッフとして映画界入り、9分の短編「Catcalls」数々のホラー映画祭で受賞、本作が初の長編映画。「帰って来たのは私の知らないママ」何処かで聞いた事有りますね?、「グッドナイト・マミー」オーストリア映画ですが、ハリウッド・リメイクはレビューしてますので宜しければ。ホラーとして見れば禍々しさに欠けると低評価でしょうが、超常現象を捨てたサイコ・スリラー。本作も日常の小さな「ササクレ」を積み上げ、得体の知れない気味悪さを演出。
www.youtube.com/watch?v=4jytFeNxsdo

割と「アルっちゃぁ、ある」イントロダクション、日本なら「忌録: document X」実話怪談。私はEXクリスチャンですが英米はエクソシストの呪い、一時期ムーブメントを起こしたアフリカ系ブードゥー等々国際色豊か。本作はアイルランドの民間伝承、キリスト教伝来以前に信仰された神々は、有名なケルト神話とごっちゃに考える方も多いが、ソレとは別に「神と女性」重いテーマとして語られる。だが、本作の場合はノルウェーの伝承「トロール」妖精を引用する辺りから、雲行きが怪しく為る。

私はファンタジーは見ませんが、トロールは「ホビットの冒険」「指輪物語」巨大な体躯で怪力として描かれるが、実際は身長は小さく知能もモグラ程度。監督は日常生活でふと物が無くなった時の有名な「トロールの悪戯」引用したと思うが、既にノルウェーの全国民が観た「トロール・ハンター」モンスター映画が有るので、ホラー派はソッチが頭を過り、本作の良さは理解出来ないかも。プロットはハッキリ言って選択ミス。

姿を消した家人が戻ってくると言えばレビュー済「レリック 遺物」、インパクトのある怖さは無くホラー派は低評価ですが、母親が変だと言う意味ではレビュー済「RUN/ラン」の方が分かり易い。とは言えアイルランド映画らしく全体的に暗いムードで映像的な圧力を掛け、登場人物も殆ど表情を変えない(アメリカ映画比)トーンで終始。肝心の怪異も京女の様に控え目(ホントかね?(笑)。ジャンプスケアに頼らず音で脅かす事もせず、グロいシーンも皆無、薄気味悪さをインテリジェンスで醸し出す雰囲気は悪くない。寧ろオカルト的な怖さよりイギリス系らしく「ヒトコワ」悪霊より陰湿な虐めの方が怖い、アメリカ映画なら間違いなく全員皆殺しだろう。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

プロットは単刀直入に「Changeling」日本で言う取り替え子。ヨーロッパの伝承で人間の子供が密かに連れ去られる時、ソノ子の代わりに置き去りにされるフェアリー、エルフ、ゲルマンの妖精と「トロール」の子。アメリカでは連れ去られた子供を意味する事が多く、タイトルもズバリ「チェンジリング」Clint Eastwood監督、Angelina Jolie主演と言う豪華メンバーで映画化。此の場合は誘拐でオカルトはナッシングだが、本家イギリス映画「ザ・ハロウ/侵蝕」、イタリア映画「クワイエット・ボーイ」チェンジリングをモチーフにしてるので、本作では子供を母親に入れ替えた点が目新しくも・・・無いか(笑)。

劇場だけでは腑に落ちない点も在り、京都の大学で文化人類学を学んだ友人に聞くと、トロール(妖精)は洗礼前の赤ちゃんと入れ替る現象、人間の子供を召使にしたい欲望が発端らしい。問題はチェンジリングを信じる人間で、入れ替ったと思ってる子供を火炙り等虐待すると実の子供をトロールが哀れみ、返してくれる。欲望が嵩じて出来の悪い自分の子供を虐待すると、良い子が帰って来ると信じて逮捕される親も、本当に居るらしい。

往年のSFスリラーの傑作ドラマ「X-FILE」人間の子供と宇宙人を摩り替える話が有ったが、過去を遡れば飢餓に依る人減らし等様々な国と地域で同じ様な混濁思想は在る。現代のリテラシーで考えると発達障害とか精神障害を持つ子供を、養育出来ないと親の義務を放棄しトロールだから殺していい、殺した親が逮捕され殺人罪で処罰された。ハロウィンの夜は子供と妖精の住む次元の境目が一年で一番薄く為る。だから、家に居る事を避け仮装して練り歩く。アイルランドの古代ケルト民族の宗教的な祭りがハロウィンの発祥。だから「Trick or Treat」目的を持って他を欺く。Angelaの顔が最後に変わった点をドウ解釈するか「You Are Not My Mother」貴方は私の母親では無い?。

私は淡麗系ラーメンを楽しめたので満足ですが、辛い刺激を求める方には少し退屈かも。
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