寝木裕和

ベルファストの寝木裕和のレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
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1969年、まさに北アイルランド紛争が起きた時のベルファストという街で起きたこと、それを9歳の少年バディの目線で見たままに綴られるストーリー。

それが、痛ましい暴力ばかりを映し出したり、悲しい一面ばかりを描いていない。

あくまで少年の日常を、少年の心が捉えたままの物語になっているところが、逆に紛争や戦争… 人間同士が争いあうことの残酷さを浮かび上がらせる。

この作品によって、今起こっているウクライナでのことも考えてしまった。
そこには市井の人たちの普通の暮らしがあり、日常の中の喜びも笑いも悲しみも、そういった突然の暴力によって踏みにじられ、残逆な形で土地を追いやられる者たちもいる。

この映画の最後も、それと同じようにバディたちは長年慣れ親しんだ土地を離れ、顔馴染みの隣人たちとも別れることを決断する。

バディたち家族の笑顔や普通の日々を楽しむ表情を見て、不条理に土地を離れなければいけないということに心が痛んだ。

モノクロで淡々と描かれるところにも、この作品を一段味わい深いものにしていると思う。
寝木裕和

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