寝木裕和

トウキョウソナタの寝木裕和のレビュー・感想・評価

トウキョウソナタ(2008年製作の映画)
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これ、なんの気になしに最近たまたま観てみたのだけれど、今観るといろいろ興味深い。

だって、この作品が公開された時点では「リーマンショック」も「年越し派遣村」も無かったはずなのに、公開してすぐにそれらが起こることを予言していたような物語の展開。
撮影している時点で、そういう雰囲気はすでに蔓延していたのかもしれない。

… で、物語としての面白さは?、と問われると、その設定の鋭さを生かしきっているとは言い難いと思ってしまった。

社会全体の閉塞感を反映したシリアスなところと、ある意味シュールな喜劇的なところが噛み合っていないというか…。
主人公・一家の主人である香川照之演じる佐々木竜平が実際には悲劇的な展開を辿っていくのに、見ているこちらはどこか笑ってしまう部分とか、役所広司演じる泥棒だって哀しい顛末なはずなのに、もはや「あんた、なんで出てきた…」と格好の突っ込みの対象のよう。

しかしもしかしたらそういったシュールな笑いを含んだ市井の民の悲喜交々の作品が黒沢清という作家の特異性なのかもしれない。(すいません、本当に黒沢清作品をそんなに観ていないので…。)

長男を戦場である中東に送ることになるシーンの小泉今日子の一瞬の表情とか、社会的に追い込まれて挙動不審になっていく香川照之とか、俳優それぞれの物語の紡ぎ方は良かった。
寝木裕和

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