Jun潤

有り、触れた、未来のJun潤のレビュー・感想・評価

有り、触れた、未来(2023年製作の映画)
3.4
2023.03.15

北村有起哉出演作品。
たしかそれだけで鑑賞を決めたので、震災をベースにした作品とは露知らず。
2週間限定公開とのことだったので滑り込みで鑑賞。

10年前、恋人を事故で喪った愛実。
そして、災害によって祖父、母、兄を喪い、その悲しみから立ち直ることができず、酒に依存する父を持つ少女・結莉。
今を生きる彼女たちと周囲の人々は、親しい人の死をどう未来に紡いでいくのか。
再生と希望の物語。

うーむ、綺麗にまとまっていたとは思うけど個人的に期待していたものとは違っていた感じ。
映画としてダメな部分はあるけれど、光る部分があるというよりは、風呂敷を広げすぎず、かといって畳みきれもせずなスペシャルドラマ感。
演出やカメラワーク、画角や光彩にもテレビドラマ感があったような気がします。

作中で明言していませんでしたが、前情報を入れていなくても、キャラたちの言い淀んでいるような言動から、なんとなく震災絡みだろうなというのは伝わってきました。
しかし、物語冒頭が愛実の恋人の事故から始まるので、中盤の大半を震災で家族を喪った人たちの現在と再生で占められると、否が応でもわかるというか、描写からスッと入ってくるというよりは、愛実が出てこなさすぎて逆に察しがつくといった感じ。

ちょいちょい不気味な描写や、シリアスに泣かせにくる場面が多用されていましたが、根底には遺された人々の中に消えずにあり続ける大切な人の存在や、そこからどう自分の中で区切りをつけて未来へ向かっていくのかに描写が割かれていました。
エッジを効かせているというよりも王道的な描写や場面でストレートに伝えてくる感じ。

タイトルについてはなんとなく3つの意味が込められているのかなと。
まずは響きの通り『ありふれた』。
これはもうどシンプルに、過去や現在がどんなものであろうと、突拍子のない未来が突然くるというわけではなく、どこにでもあるような未来が来るということ。
そして未来は『有り、触れ』ている。
生きて未来に繋がっていくと、これまでに縁が無かった存在同士も触れ合うことがあるということ。
これに関しては細かい描写で直接的な繋がりを描いてなくても、小さな小さな繋がりであったとしても、人と人が繋がっているという描写でもってよく伝わってきました。
そして個人的な拡大解釈ですが、『有り(得たかもしれない)、触れた(かもしれない)、未来へ(前進あるのみ)』。
明言されていなくても、細かい描写からそんな意味も込められているように感じました。
あの時あの人が死んでいなかったら、あの時自分が死んでいたら、もう少し先で触れていたら、違う未来があったかもしれない。
しかし過去が確定し、現在まで繋がったのだから、今あるものを大切にして未来へ前進あるのみ。
これもまた大切な人を喪った悲しみを克服するための王道なメッセージの一つだと思いますし、心に響きますね。
Jun潤

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