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イノセンツのアー君のレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
3.7
エスキル・フォクトは監督というよりも、主にヨアキム・トリアーの脚本に携わっている印象があるが、どのような内容なのかは気にしていたが、先週は名画座が主だったので、公開から少し経ったがなんとか劇場で観に行くことができた。

大友克洋「童夢」の影響を公言して作られたので、似ているという声は多くあったが、原作漫画は読んではいたが、さほどそのような感じはなかった。逆に過去作である「テルマ」の方が私には近い印象があった。

全体的な進行として若干の中だるみはあったが、不文律な子ども同士の人間関係と超能力の世界をバランス良く描いた良作であり、欧米が撮りそうなハリウッドよろしく派手な超能力合戦ではないが、トーンを抑えた欧州的で地味な雰囲気が逆に新鮮ではあった。

音楽の使い方は少し騒々しいところもあったが、(個々の劇場の設備の問題もあるとは思うが。)シーンとしての効果は絶妙で程よくユニゾンはしていた。

靴の中にガラスの破片を入れたりする妹イーダの意地悪な描写は、障害のある姉であるアナを中心として家族が動いているため、次女として子供なりの親を向けたサインではあり、情緒面の不安定な心理をよく捉えている。

引越しで出会う事となるベンではあるが、超能力遊びから、軽いきっかけでネコを最上階から落として、頭を潰したときから、生命とは何かという単純な疑問から死を客観的に見ることで、動物から人間の死に興味抱く人格描写はこの映画の重要な起点でもあり、映像としての説得力はあった。

気になったところは、後半に起きる子供たちが対立していく描写においては強引とまでは言わないが、ある時期に妹が急に姉を庇ったり、イーダが飛行機の模型で誘う段階でもベンは既に敵意はあった筈なので、子どもの曖昧な心理はあるとは思うが、突き落とされたことを決定打にする理由にしなくても、進行はできたのではないかと思うが。

子どもの持つ残虐性は三島由紀夫「午後の曳航」の小動物の解剖シーンや、松本清張の小説における大人に対する殺意、楳図かずお「漂流教室」のクラスで起きる内ゲバなどをテーマにしたことは昔からあったが、この邦題の「イノセンツ(無垢)」は、矛盾するように見えるが、これは子どもの頃を振り返れば、誰もがそのような感情は抱いていたのではないだろうか。

[イオンシネマ板橋 18:00〜]
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