アー君

水を抱く女のアー君のレビュー・感想・評価

水を抱く女(2020年製作の映画)
3.6
ベルリンの街並みを背景にしたミステリーとも捉え難いこのドラマは、欧州諸国における水の精霊である「ウンディーネ」の物語が下地となっているが、(日本でいう水妖だと人魚や河童が一般的かも。)基本的なウンディーネ像にペッツオルト監督があらたな解釈を加えた幻想譚として描かれていた。然しながら鑑賞する前の知識として精霊伝説を理解しないと馴染みの薄い地域では、タフな女性の変なホラーに見えてしまう印象も少なからず感じるだろう。

大まかなウンディーネの話は精霊と騎士の恋愛とやがて起きる不実からの悲劇を招く物語ではあるが、この映画においては古典的なテーマを引き継ぎながらも元恋人ヨハネスと潜水夫であるクリストフとの主観的な三角関係などが加味された今までの男性本位から描いた女性像ではないウンディーネ像を新たに描いている。

現在における人間(男女)関係の希薄さを伝承譚にベースとして東西統一後のベルリンを舞台としているが、都市(論)にも古い歴史と進化があれば、伝説も相互作用において相対的に変貌することを言いたいのだろうか。地味ながらもメッセージとして強く感じられた。

そして彼女の電話のシーンなどは妄想である可能性もあり、繰り返しになるが、このドラマでは新たに自身の主観的な心理描写を取り入れたことで心の迷いもみられており、半妖精的でもある点も登場人物に寓話とは違う、どこか人間的で曖昧な含みを持たせているのも監督のたくらみでもあり重要なところである。

ニュー・ジャーマン・シネマ以降に登場した作家性のある〝ベルリン派〟と呼ばれているクリスティアン・ペッツオルトの近年の作品は、レンタル配信によって鑑賞は可能ではあるが、それ以外の監督作(同年代のアンゲラ・シャーネレク、トーマス・アルスランなど)は日本では映画祭で限定的に特集上映ぐらいだと思うと残念で口惜しいのが本音である。
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