本好きなおじぃ

前科者の本好きなおじぃのレビュー・感想・評価

前科者(2022年製作の映画)
4.2
新米保護司の阿川。新人ながらも、複数の保護観察対象者をサポートし、諭し続けている。
この映画では、自動車修理工場に勤める工藤が主な対象者。彼は勤勉で、正社員も打診されているほど。まもなく仮釈放期間が明けることになり、阿川も喜んで祝おうとしている。
一方そのころ、拳銃を用いた連続殺傷事件が起こる。警官1名が重傷、2名の一般人が殺害。
警察は解決の糸口をつかめなったところ、3人目の被害者の爪に工藤のDNAが付いていることが判明、そこから3名は工藤とつながったことから、工藤が容疑者として浮上してしまう。
同じころ阿川は、面会の予定だった工藤を探しますが見つからなく、行方不明状態になってしまい――――

工藤が謎の男・実を追いかけ話しかけようとしたところから、物語に暗雲が垂れ込める。怪しい実の行動、黒ずくめの犯人、工藤は果たして犯人なのか。そして物語の結末は。



ドラマ版、あるいはコミックよりも激しい描写があり、後半に行くにつれ少し叫び出してしまうような場面が多く、このギャップに驚く。
また、よくドラマでは警察と弁護士が事件と向き合う様子が描かれることが多い。今作では、警察と弁護士とともに保護司の、それぞれの事件との向き合い方が比較される中での、保護司としての阿川の決断・決意が垣間見える。

そして、ドラマ版でも登場してきた、保護司を志すに至った学生時代の思い出を思い返す瞬間があり、そして自らを責め、自ら赦す、そんな瞬間も登場し、原作ファンとしても、伏線回収されて見ごたえのある内容となっている。

阿川役の有村架純の、広い心で包み込む母性溢れる演技と対極に、工藤役の森田剛の、鬱屈としているが何とか前を向いて生きようとするその姿があり、戦わせる演技力も見もの。みどり役の石橋静河がこれもまた有村と対極に明るい姿でなごませ、勇気づけてくれるのがまたいい。

中盤から後半にかけての大きな変化に驚きつつも、阿川の保護司としての矜持、そして何より対象者を更生させんとするその意気に、私たちも少しは更生しようとするものに向き合えるだろうか、と思わず絆されるのではないだろうか。