MrFahrenheit

ダンス・オブ・41のMrFahrenheitのレビュー・感想・評価

ダンス・オブ・41(2020年製作の映画)
3.9
自らの政治的野心の為、大統領の娘アマダと結婚したイグナシオ。実はゲイ。妻の目を盗んで夜な夜なゲイの秘密クラブに足を運ぶが、夫婦生活に満足していない妻は夫の秘密に気づいてしまう。

1900年頃のメキシコの実話をベースにした作品だそう。どこまで史実に基づいているのかは分からないが、建築や調度品、衣装にも見応えがあった。

終始妻を野心の道具として扱う主人公が目を瞑り妻と性行為に及ぶシーンは胸が痛む。夫がゲイで不貞していることに気づいてなお夫婦生活を続けようとするアマダ。表向きは豪奢な上流生活の裏で、最後までやるせなさが続く。

現代に生きる私の価値観では自己中心的な主人公に共感しづらいが、時代と社会背景は無視できない。不条理な時代の不条理な話をそのまま見せる点で成功していると思う。人間の弱さも含めて。

物語後半でイグナシオが聖セバスティアヌスの絵画の前でうな垂れるシーン、二重生活を送らざるをえない苦しみと不条理さが象徴的に描かれており胸に刺さる。同性愛者が逮捕された当時と比べればかなりマシにはなったが、今でも自らの性的指向を隠して結婚するケースは世界中で沢山ある。日本でも。

自分を出さず、他人を道具として扱うイグナシオが心から安らいだのはエヴァと過ごした一時だけ。アマダは最後まで置いてけぼり。早くこういう話は完全に過去のものにしたい。