浄土

ベネデッタの浄土のレビュー・感想・評価

ベネデッタ(2021年製作の映画)
4.3
オランダという国家が伝統的に持つ思想的・宗教的な寛容さを「ネーデルランセ・トレランティ」と呼ぶのだとか。かつて国家ぐるみでキリスト教のアンチとなってガッチガチに鎖国してたウチんとことも唯一交易があったくらいなので、日本人ならなんとなく腑に落ちやすいかもしれない。そんな欧州における宗教的寛容の土壌が生み出したバケモノ映画監督で有らせられるポール・バーホーベン御大、今回は怖いもの知らずとかいうレベルですらなく、真正面から裸一貫切り込んでいて笑ってしまった。

アメリカから母国に帰って映画製作の勢いは衰えるどころか、むしろ尖鋭化してるのは言わずもがな。実話に基づく聖女の話なんて聞いたときには良くも悪くも嫌な予感せず、案の定その予想は当たっていた。信仰心の希薄な自分でさえ「ひぃーそんなブツを!ば、罰当たり!」と身悶えたし(もちろん同時に爆笑した)、ジーザス・クライスト・スーパーヒーローは出てくるし、脱糞!母乳!拷問!彗星!黒死病!と、いくらなんでも要素が多すぎる。2つで十分ですよ、わかってくださいよ!

お告げを受けて「神様の愛い奴は私だけじゃい!」と言わんばかりにパワー全開で行動するベネデッタの胆力たるや、キ○ガイに刃物ならぬ狂信者に啓示といった趣き。信仰の中心にいる人間を主軸に置いて、逆説的に信仰が持つ矛盾や解れを曝け出していく様はある種の人間讃歌とも言えなくもない。道義には背いているが現場主義で人々に活力を与える尼僧と、位は高いが民草の苦しみなどどこ吹く風で権威に胡座をかいている教皇大使。本質的に聖なる存在なのは、一体どちらなのか?

キリスト教のドグマを基盤とする欧州の伝統道徳を根本からひっくり返すのは、善悪の彼岸に達したバーホーベンその人にしかなし得ない所業と言えよう。天使と姦淫して、悪魔をカツアゲした男。天国へのパスポートは既に失効済なのは火を見るより明らか。御大には地獄のエグゼクティブシートがよく似合う。
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