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I ~人に生まれて~/人として生まれるのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.3
 2008年、14歳の少年シーナン(リー・リンウェイ)は思春期で異性に興味が出始め、エロ本で自慰行為をする普通の童貞中学生として登場する。ガチなゲーマーで勉強そっちのけでバーチャルな世界に没入する姿は正に21世紀の典型的な中学生なのだが、突如激しい腹痛に襲われ、血尿と貧血に悩まされるようになり、両親と共に病院へ向かう。この辺りのぬめっとした描写の積み重ねは率直に言ってどうかしていて、一刻も早く病院に駆け込むべきなのだが監督であるリリー・ニーはこの辺りの描写にも物語性を盛り込もうとする辺りが心底とち狂っていると思う。生理のように股間から血を出した主人公は案の定、男らしさに憑りつかれた男子たちにいじめられる地獄のような展開で、この丁寧ないじめの描写には心底げんなりである。結論から申し上げればシーナンは性分化疾患であることが判明する。つまりトランスジェンダーではなく両性具有というのが物語の骨子で、リリー・ニーは既にLGBTQIA+と定義された属性の中に突如として性分化疾患を持ち込むのだ。

 聞き慣れない言葉だが、インターセックス(性分化疾患)という言葉があるらしい。映画内では極めて珍しい症例としてインターセックス(性分化疾患)が扱われたが当事者となるシーナンは一人っ子を持つ厳格な親にどのような症状であるかを知らされることがないまま、手術へと踏み切る。このことは一切の説明を受けないまま手術をさせられたシーナンへの人権侵害なのは間違いない。一番は両親の無知と過干渉とが人権侵害に拍車を掛けるのだが、医師の14歳の少年シーナンよりも国際的に稀な症例で実験したいという歪んだキャリア意識というのが主人公本人の及ばぬところで粛々と実行される辺りがひたすら胸糞悪い。男から女へといったそんな単純なスイッチングで彼ら彼女らの心情まで推し量れるのかと思って観ていたが、やはり制度上の建て付けの違和に主人公の心は追い付かず、徐々に歪みが波及して行く展開はひたすら地獄で、スクリーンの前でずっと苦しかった。然しながら自身のキャリアばかりで患者の心に寄り添わない医師のステレオタイプな描き方にはもう少し冷静さが必要で、あまりにも歪な題材を正攻法で描こうとすればするほど、逆にモンタージュの基本に立ち返るべきではないか。
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