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鬼平犯科帳 血闘のnetfilmsのレビュー・感想・評価

鬼平犯科帳 血闘(2024年製作の映画)
4.1
 『鬼平犯科帳』も新たなキャストによる新シリーズ到来となったが、悪くない。昨年の『仕掛人・藤枝梅安』前後編と比べると明らかに時代劇としてのクオリティが充実している。というか個人的には昨年の池波正太郎の生誕120周年に素直にこの『鬼平犯科帳』か『剣客商売』を映画化すれば良かったように思う。トヨエツの梅安も悪くないが、いきなりの『仕掛人・藤枝梅安』は流石に唐突過ぎた。悪党たちから恐れられる火付盗賊改方長官・長谷川平蔵(十代目・松本幸四郎)の前に、若き日に世話になった居酒屋の娘・おまさ(中村ゆり)が現れ、密偵になることを申し出る。平蔵に断られた彼女は、彼が芋酒屋の主人と盗賊の二つの顔を持つ鷺原の九平(柄本明)を追っていることを知ると、独断で調査を開始。おまさは九平を探るうちに凶悪な盗賊・網切の甚五郎(北村有起哉)の悪計を知り、網切一味に潜り込む。のちに長谷川平蔵の密偵を務めるおまさ爆誕までの流れをこれでもかと現わした神回で、梶芽衣子に続いて陰のある薄幸の女を演じた中村ゆりの肝の据わった演技が頼もしい。確か『仕掛人・藤枝梅安』前編でも最初に殺されたお香を演じていたのが中村ゆりで、その時の女郎の儚さや業のようなものが、一足飛びでの大抜擢につながったと見ている。

 終わってみれば十代目・松本幸四郎の演技も思った程は悪くない。それはもう人間国宝だった二代目中村吉右衛門の大人の渋みには勝てないし、萬屋錦之介の殺気にも勝てないわけだが、十代目・松本幸四郎としての苦み走った表情はなかなかに絶品で、心なしか西村まさ彦の三谷時代劇を思い出す。乗馬ぶりはかなり危なっかしかったが、同心の木村忠吾(浅利陽介)通称うさぎとのやりとりでは、かつての女好きの側面も見事に演じ分けていた。久しぶりに観た久栄(仙道敦子)の眉毛の違和感がしばらく拭えず、肝を冷やしたのだが、平蔵の危なっかしさに平静を装いながら、静かに手綱引く妻を演じていたし、あのごく僅かな久栄とおまさの食卓シーンの緊張感は、ワイド画面でこそ映える名場面だった。細かなキャスティングやアンサンブルも実に見事で、今作の実質的主役となる芋酒や『加賀や』の主人と盗賊の二つの顔を持つ鷺原の九平(柄本明)の巧さにも魅了される。『身代わり忠臣蔵』の演技よりもこちらは正調な柄本明の巧さが光る。火野正平やベンガルの出演も憎いし、十代目・松本幸四郎の幼少期を市川染五郎が演じる辺りも播磨屋のファンとしては嬉しい。死と隣り合わせの北村有起哉の狂気も必見である。その一方でフル・デジタルによる撮影やポスプロ時での血飛沫など最新の時代劇への違和感が拭えぬのも事実であり、あのチャンバラ場面の絵としての弱さはもう少し何とかならなかったのかなぁという想いがするが、総じて良い映画である。
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