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クイーン・オブ・ダイヤモンドのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.0
 ニナ・メンケスがハリウッド映画の底知れぬ暗闇の中で僅かながらに掴んだシャンタル・アケルマンの『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』という微かな感触を大事に丁寧に拾い集めながら撮った映画が『マグダレーナ・ヴィラガ』だとすれば、今作ではそこにウルリケ・オッティンガーの『アル中女の肖像』というまたしてもフェミニズムの歴史を塗り替えるようなマスターピースが浮かび上がる。ヘテロ社会において不勉強だった私はシャンタル・アケルマンの映画もウルリケ・オッティンガーの映画も観ることは出来なかったが、昨年彼女たちの映画を一通り観た私たちからすれば、90年代の世界線へひとっ飛びせんと目論むニナ・メンケスが今作のテイストに、ウルリケ・オッティンガーの『アル中女の肖像』への憧憬を映し出したことは、彼女の純粋な初期衝動を感じさせる。ここでは『アル中女の肖像』に主演したタベア・ブルーメンシャインの顔面蒼白になるような表情が、ニナ・メンケスの妹であるティンカ・メンケスにより、深い虚無を感じさせる。

 主体を獲得しようと目論む彼女たちの企てはモーテルにおいてDVする野蛮な隣人に中指を立て、ラスヴェガスのカジノをロング・ショットで捉えた長回しのカメラが彼女たちの労働を据える。無作為に穴に吸い込まれる米ドルが怠惰な女性たちのセクシュアリティのメタファーだとすれば、ここでは曖昧だった『マグダレーナ・ヴィラガ』よりも強烈なメッセージが込められている。然しながら昼は介護職で、夜はカジノのディーラーというフィルダウスの焦燥は、『アル中女の肖像』のタベア・ブルーメンシャインよりも幾分真に迫る。観客としては予告編でも使われていた左側で燃えるヤシの木のショットが絶品で、ヤシの木にとっては気の毒だが、その1本の太い幹が燃える様は、家父長制度の終焉を想起させる。極めて宗教色の強い映画はテーブルに乗る魚から、図らずも指輪が登場する。シャンタル・アケルマンに無邪気にオマージュを捧げた『マグダレーナ・ヴィラガ』を経て、ここでは極めて独創的なショットの連続にニナ・メンケスの確かな成長を見る。今回の映画祭にはニナ・メンケス序章の加減もあったのだろうが、来年の第二回にも大いに期待したい。
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