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恋するプリテンダー(2023年製作の映画)
3.8
 街角で急に尿意をもよおし、カフェに入れば長蛇の列に並ばなければトイレを利用することが出来ない。そんな店員の杓子定規な応対までの一部始終をつぶさに見ていた長蛇の列の先頭付近にいる金融マンのベン(グレン・パウエル)は、その日その時出会ったばかりの女性に対し、「My Wife」と大袈裟に投げ掛ける。その言葉に反応する弁護士を目指してロースクールに通うビー(シドニー・スウィーニー)は、臨機応変に彼の貞淑な妻の「フリ」をするのだ。今作は相手が投げ掛けた問い掛けに条件反射的に○○の「フリ」をすることで物語が進んで行く。あれだけ意気投合し、互いの病巣を明かし合う程一時は盛り上がったにも関わらず、最初の出会いは結局はワン・ナイト・ラブで別れの挨拶を交わさないまま不器用なビーはそそくさと立ち去ってしまう。恋愛の芽が出た時には、いつも姉や友人への報告を欠かさない彼女もまた失礼だったと思ってベンの部屋に戻るのだが、そこで彼女は中身が空っぽな女と云うベンの一言にいたく傷付く。シェークスピアのニュアンスは忘れたが愛憎はいつも紙一重の言葉にもあるように、出会ったばかりの2人は互いの何気ない仕草や言動にえらく傷つく。

 せっかくプリテンダーなアシストをした彼にしては、素敵な彼氏の「フリ」が出来なかったベンの痛恨のミスである。それから数年の歳月が経ち、狭い街で暮らす2人はまたしても突発的な出会いを果たす。それ自体が何もかも不毛な出来事であり、蛇足だと思いながらも2人は、オーストラリアで決行される女性同士の同性婚の儀式に出席を果たす。ある種オーストラリアへの同性婚の旅の中に半径数mの主人公の大切な人々は全て含まれている。つまり彼女は人生の全てを賭けてベンに全力でベットしようとするのだが、当の本人の煮え切らない態度にまたしてもえらく傷つく。世の中に女性と男性がいる限り、永遠に女性側の本意を読み取れぬ輩はいるし、改めて恋愛の非対称性は浮かび上がる。然しながらロマコメにとっては男性側が鈍感である限り、物語は遅々として進むことはない。その辺りを制作側が気付いているか否か急にベンに電気ビリビリで荒療治を繰り返す後半の実存主義的な展開が最高で、風光明媚な旅先での風景を卒なく編集した映像そのものもムード満点。だが流石に税金であろう救助隊を二度も呼んで足代わりに使うのはNGだが、グローバル資本主義の圧倒的成功例のような全世界興行収入300億円越えという驚異の成績に面食らう。
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