butasu

そして僕は途方に暮れるのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

そして僕は途方に暮れる(2022年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

トヨエツはずるい!

目の前のことから逃げ続けるクズ(自覚あり)が反省して人生をやり直そうとする話。主人公のクズさがやたら強調されるし実際物凄いクズなのだが、周囲の人間もちょっと擁護したくない奴ばかりで、どうにも感情の持って行き場が難しかった。

逃避癖のある主人公(藤ヶ谷太輔)のクズさへの解像度の高さは異常。その場その場で「なんか上手くやれそう」「俺の居場所はここかもな」と調子に乗り、ちょっとでも相手が自分を責めるような素振りを見せるともう居ても立ってもいられなくなり文字通り走って逃げ出す。ただこれがかなり色々なパターンを見せてくれるので、観ていて全く飽きずに楽しむことが出来た。元々が舞台だというのはなるほどなといった感じ。「やっぱり実家の安心感」とホッとしたところで母親(原田美枝子)が新興宗教の話を始めるシーンは笑ったなぁ。

タイトルからハッピーエンドにならないことは予想がついていたが、「自分が逃げている間に彼女(前田敦子)と親友(中尾明慶)が浮気していた」というオチはどうかね。いやこのオチ自体は因果応報感があって悪くないのだが、ここに落ち着けるのであれば終盤の展開がおかしい。彼女と親友は年末にわざわざ二人揃って主人公の実家を訪問し、主人公の家族と一緒に食卓を囲むのだ。親友に至っては「俺、お前のこと許すよ!」的な話までしてくる。こいつが腹黒キャラならまだしも、ちょっとあまりに人間性のバランスがおかしい。どんなサイコパスなんだよ。「全員の前で謝罪する主人公」(これも非常に舞台的で映画としてはかなり不自然で大仰)と「裏切られる主人公」の両方のシーンを出したいために、話の筋が滅茶苦茶になっている。ハッキリ言えば下手くそ。

あとバリキャリサバサバ系女子の姉(香里奈)が嫌い。憔悴した様子の弟が深夜にずぶ濡れで訪ねてきたのに、優しく話しかけた直後、返答も聞かずに「金でしょ」といって万札を投げつける。これも「姉に心を許そうとした途端ダメだった」というシーンにしたいだけなのだろう。やっぱり人物描写が本当に下手くそなのである。終盤に再登場したときも「私はあんたを絶対に許さない」と主人公をなじるが、主人公に浮気された彼女はまだしも、こいつがそこまで一方的に主人公をなじることには違和感しかなかった。

そしてこの映画で一番引っかかったのは、母親の新興宗教の件。確かに出てきた瞬間は面白かったが、出オチとしてつかわれただけでその後一切何にもこの件については触れられないのだ。ちゃんと家族4人が一同に揃ったのに。正直、浮気がどうこうよりもこっちの話の方がもっと深刻だと思う。ちゃんと全員で話し合うべきなのはこっちの話題だよ。持病があるのになんか怪しい粉末を飲んでるしさっさとこの件を解決しろとイライラしながら観ていたら、そのまま映画が終わってしまったので酷く驚いたし消化不良でガッカリした。

あと"映画"という例えを何回もクドいくらい出してきたのも、メタを通り越して「これ映画だもんな」と観ている最中に我に返って冷めてしまった。これもちっとも上手くない。この"映画"の例えも含め、本作は何もかもを全部台詞で言わせてしまう。

しかし主人公と同じクズさを持つ父親をトヨエツにやらせるのはほんとうにずるい。結局この映画、全ての説得力をトヨエツの存在感に頼っている気すらする。本作のテーマやキーワードは全部トヨエツが台詞でご丁寧にべらべら喋ってたもんな。あと主人公に対し「かっけぇ生き方」と言い続ける後輩の野村周平が良かったなぁ。
butasu

butasu