8Niagara8

偶然と想像の8Niagara8のレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.8
抑制的な節回しながら、寧ろ感情が迸るのを感じる。些細なきっかけで一気に感情が流れ出る。
そしてどれもロールプレイング的な要素が強い。
映像、演出も引き算で構成されているのを感じ、会話劇が一層際立つ。
テンポ感がよく、短編集としても成立する。

第一話
愛の加害性がリアリティをもって描かれる。芽衣子は恋愛そのものよりも、それを通じて自らが主導権を握ることに快感を覚えているようにも映る。自己陶酔的な振る舞い。遠いが、行く着く先はファムファタール的なるものかもしれない。
和明も中途半端な男で確かに傷つくことを嫌うようで、中島歩が適任のような人物。でもそれって利己的で、彼は被害者意識を抱くが、人を傷つけるんだろうなと。
ユーモラスで本当に人間臭くて、馬鹿らしくも愛おしい。ただし人間の毒牙がありありと。
そんな彼らだが、互いにごまかしののような会話の中でも勢いで真意かと思うような言葉が混ざる。そもそも感情の排された、上っ面のような会話では本音は出てこないという逆説的呈示。

第二話
偶然と恣意性が生む不幸。
その場の状況を楽しんでいるがゆえの、一寸先は闇ではないが、人生の皮肉みたいなもの。
瀬川と奈緒の会話が特に無機質だったからこそ、純然たる本能的恍惚が露わになる。
どこか性欲への根源的な後ろめたさから解放されるような快感がある。
しかし、二人の対話は詰まるところ、解放された自己と向き合うこと。
そしてラストでも感情に振り回される奈緒が象徴される。
途中何を見させられているんだというメタ的視点からの感情が湧いてくるが、そのラストの軟着陸に唸る。

第三話
名付けとロールプレイングの一体的でパラドキシカルな様。
静謐ながら、どこか不安さが立ち込めるアンバランス具合が最高だった。それを傍観するからこそ途中薄ら寒くなる。
しかし、彼女たちは勢いのままで至った偽りの親密さを利用して、自己を解放しカタルシスに辿り着く。
これに寄り添うような展開、ラストは圧巻。
作品全体そのものの格を上げるかの如くの驚異的なエネルギー。

ホラーであり、ロマンスであり、コメディであり、つまり、日常の映画なる要素を抽出する。
決して映画的リアリズムに留まり、その外にある我々の現実の日常そのものにははみ出ない。
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