むらむら

偶然と想像のむらむらのレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
5.0
濱口監督の作品を観るのはこれが初めてなのだが、これ一作でも強い個性が感じられる短編集。

一見棒読みのようにも聴こえる感情を抑えた演技と、まるでその人がその場で言葉を発してるような言葉のキャッチボール、物語的に訪れる劇的な瞬間など、濱口印、みたいなものを随所に感じることが出来る。

「偶然と想像」……鬼のように偶然が重なり、偶然の年末大バーゲンにしか思えなかった「悪なき殺人」からすると「まだまだ甘いよ!」ってマウント取りたくなる程度のプチ偶然なのだが、これくらいが俺たち日本人には丁度いい。

以下、三本の短編の簡単な感想です。

1.魔法(よりもっと不確か)

タクシーでの女子二人の会話。片方の女の子が最近気になっている男は、IT社長のイケメン。前の子とはヒドい別れ方をして、私と付き合いたいのかも。そんなノロケを聞いた女の子が取った行動とは……。

→残りの2つに比べて比較的、ありえそうな話。タクシーの運転手さん、こんな話を延々聞かされて可哀想だなーって思った。

→カメラマンが「うわっ、ズームするの忘れた!」みたいになって、慌ててズームするのは、濱口監督の持ち味なんかな? 効果的に使われてた。

2.扉は開けたままで

大学教授に単位を落とされて留年したチャラ男が、セックスフレンドの同級生人妻を使って、教授をハメようという話。人妻は芥川賞を取ったばかりの教授の教授室に単身乗り込んで、教授の書いたエロい小説を朗読。教授を誘惑する。

→チャラ男がクズみたいな性格で、陰キャな教授が、こんなヤツにハメられる姿は可哀想だった。

→芥川賞取った小説が、めっちゃ村上春樹。
「射精した僕は、彼女に縛り上げられ、陰部をさらに舐められた」
みたいな内容が続く。俺が審査員だったら「村上春樹の影響、受けすぎやろ!」って言って落選させるね。

→個人的には、教授の小説が、芥川賞受賞ではなく、二次元ドリーム文庫かフランス書院文庫の新人賞だったら捗った。

「ああっ、もうダメッ!  ぁあ…ウンチ出るっ、ウンチ出るぅぅぅ!! ビッ、ブリュッ、ブリュブリュブリュゥゥゥーーーーーッッッ!!! いやああああっっっ! 見ないで、お願いぃぃぃっっっ! ブババババババアアアアアアッッッッ!!!!」

→これを音読してくれたら俺、毎日、観にいって、円盤も予約してたわ。

→人妻のチャラ男への悪意が垣間見えるラストは良かった。

3.もう一度

数十年ぶりに仙台に戻って、女子高の同窓会に参加した主人公。同窓会では周りに馴染めず、翌日、東京に戻ろうとしたところに、同窓会に出席していなかった友人と遭遇。彼女の家に向かう。

→ちょっとコントっぽい展開。すれ違いの連続が、最後、なぜか共感として昇華される。小説とかマンガだったら、「こんなわけねーよ」で済まされそうなのを、説得力もたせてるのは映画の力だよなーって思った。

→Marrikuriさんのレビューで「女子高の同窓会やったら、夜から始まることはない。絶対に午後から。そこがリアリティない」って書いてあって、なるほどなー、って感心。

→俺的には、女子高の同窓会で良かった。男子校の同窓会で「うち、お茶あるんだけどさぁ、寄ってかない?」って言われてたら、その先の展開を察してしまい、尻を狙われないよう気をつけながら、そそくさと劇場から逃げ出していたと思う。

→っていうか、そもそも、同窓会に呼ばれてるのが羨ましい(涙)。

(おしまい)
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