むらむら

マリウポリの20日間/実録 マリウポリの20日間のむらむらのレビュー・感想・評価

5.0
ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月24日から20日間のマリウポリの記録。この作品は重かった。

マリウポリは侵攻開始から84日後にはロシアに制圧され、現在もロシアの支配下にある。

血みどろの場面や死体、爆撃音や爆発が普通に出てくる。これがたった20日の間に起こった出来事だなんて……。ちなみに俺が東京で「ドライブ・マイ・カー」を観てたくらいの時期、

いくつか映画の中で印象に残った発言を紹介。

■「ロシアは市民を攻撃している。これは明確に戦争犯罪だ」

侵攻されてから数日はまだ戦火は遠くにあるが、次第にマリウポリにロシア軍が迫ってくる。
特に市街中心部が戦場になってからのシーンは凄まじい。住宅や病院、大学、消防署……すべて完全に破壊されて呆然とするしかない。

■「この映像を世界に発信してくれ」

病院で懸命に救助に当たる医師や看護師は、次から次へと運び込まれる犠牲者を見てこう叫ぶ。死亡した幼児やサッカー中に砲撃を受けて両足を失った少年。ボロ雑巾のように放置される死体。

■「君たちの映像がなければ伝わらない」

監督はウクライナ人で、侵攻前から8年間、AP通信の記者としてウクライナの取材を続けていた。給電などのライフラインが寸断されたあとは、街中にわずかに残るネット環境から、10秒程度の映像をAP通信に送り続けたという。

実際にその映像が日本を含む世界各国のニュースで使用されているシーンも出てくる。爆撃された病院から妊婦が運び出されている映像は俺も記憶があったが、残念ながらその後、妊婦も子供も亡くなったという事実は初めて知った。

■「戦争はX線のように人の内面を反映する」

ロシアの脅威に留まらず、作品内では、マリウポリ市民の混乱も映し出される。

破壊されたスーパーマーケットから物資を略奪する市民たち。かと思えば、戦火の中でギターを弾いて子どもたちをあやすオバサンもいる。

アウシュビッツに収容されたヴィクトール・フランクル「夜と霧」の

「人は全てを奪われても、あたえられた環境でいかにふるまうかという、人間としての最後の自由だけは奪えない」

という一節を思い出す。日本の地震とかでも火事場泥棒的な連中いるけど、どこでも同じなんだね。

■「爆撃してるのはウクライナ軍じゃないのか」

中には、ロシアではなくウクライナ軍やアゾフ大隊が、市民を貶めようとしているのでは、と発言する人たちもいる。

■IMDBから引用

さて、アメリカの大手映画レビューサイトIMDBでは、2.1万人の投票で、10点満点中8.6点の評価。全体の60%の人が10点満点をつけているが、最低の1点を投票している人も、2%。つまり、50人に1人はいる。

気になったので、どういったレビューがあるのかを見てみた。

まずは一番評価(レビューの評価)が低い「評価2点」のレビューから、要約を引用する。

(以下、要約)

これはプロパガンダの映画だ。

ロシア軍が近づくと、アゾフ連隊は街を荒廃させた。親ロシア派の住民たちは、アゾフ連隊に弾圧された。人でいっぱいの劇場が爆撃されたというのに、空襲で出来たはずのクレーターは無かった。住民は「キエフが占領者で、モスクワがそこから解放してくれる」と言っている。

キエフ軍事政権に対するドンバスの民衆反乱の象徴都市、8年間続いたバンデルの占領の殉教都市は、現在、ロシア連邦の諸機関の庇護の下で急速な再建プロセスに直面しており、その不可欠な部分となっている。

(要約おわり)

逆に「10点中10点」の支持を受けているレビューの要約も引用。

(以下、要約)

私と家族は、2021年中盤まで、この作品に出てくる、劇場と病院、大学の近くに住んでいました。

病院の隣にあったカフェ「Coffee Racer」でコーヒーを飲みながら、道行く人が散歩する姿を眺めていたのを覚えています。

母はマリウポリに残りました。誰もまさか、ミサイルによる爆撃と戦車が押し寄せるなんて予想だにしていなかったのです。

母は、この撮影隊が過ごした第二病院の近く、クプリナ通りに住んでいました。ここは最前線に近く、完全に破壊されてしまいました。幸運なことに、母は70日後に脱出することが出来ました。

私はこの映画を家族に見せることは出来ません。家族にとっては、何もかもが馴染み深い風景だからです。この映画では描かれていませんが、侵攻前のマリウポリは活気に満ちた、素晴らしい街でした。ロシアは、そんな街に嫉妬し、徹底的に破壊したのです。彼らはその事実から逃げることは出来ません。

この映画は砂糖でコーディングされていない、現実の記録です。目を背けたくなるようなシーンもありますが、ぜひ皆様に観て頂きたいです。

(要約おわり)

ドキュメンタリーは何らかの演出が入っているのは理解しているが、この作品の映像の圧倒的な力を観たら、戦争の恐ろしさ、蹂躙される市民の無力さというものを否応なく感じさせられる。

この作品の中で、ロシアのラブロフ外相(確か)は、破壊された病院の映像を見て

「全部セットで作られたフェイクニュースだ」

と完全否定。戦地から送られた数十秒の映像は、全部作られたものだ、と主張する。

当時、AP通信の撮影班が送ることの出来た素材は、この作品で使用されている素材の、わずか10%程度だという。今回、この作品を見ても、ラブロフ外首は、同様の主張をするのだろうか。観ないと思うけど。

ただ、「ムー」読者の俺が言うのもなんだが、「月面着陸はハリウッドの映画セット!」って言う人は、一定数いるからなぁ。

俺の周りでも「ゼレンスキーは実はアメリカに住んでる」って信じてる人いるし。

ちなみに、俺は、

「AV女優は本気で感じている」

というのは断固として信じる派です。

(おしまい)
むらむら

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