椿本力三郎

ゴッドファーザー(最終章):マイケル・コルレオーネの最期の椿本力三郎のレビュー・感想・評価

4.5
ゴッドファーザー3部作を「最終章」でコンプリートしました。
いずれの作品もシアターで見て良かったです。
最終章ですが、アンディ・ガルシアに尽きますな。
アンディ・ガルシアの役者としての成長を待って
この作品が作られたような印象すら受けました。
野心ありすぎで、捨てるものもなくて、
何をしでかすかわからない「若者」をアンディ・ガルシアが引き受けたからこそ、
アル・パチーノは、「2代目ドン」が心身ともに老いて弱っていく姿を演じられる。
やっとアル・パチーノも役者として「2代目ドン」を引退できたと思いました。
すべてが絶妙のタイミングで、見事な引継ぎだったと思います。

さて、イタリアンマフィアを演じるにあたって、
生命力ギラギラな濃いハンサムの起用はマストと思いますが、
たとえば、若き日のアントニオ・ヴァンデラスとか、
ジャン=クロード・ヴァン・ダムだと
今度は肉体の主張が強すぎて「誰かにやらせる前に自分でやった方が確実なんじゃないか」と思わせてしまう。

アル・パチーノもアンディ・ガルシアもほどよいリアリティなんですな。身長にせよ、身体つきにせよ。
この点、初代ドンのマーロン・ブランドの恰幅の良さは、
「ドンに何を求めるか」という時代の変化も反映されているように思いました。
肉体に与える直接的な恐怖から
金融、政治さらに宗教へと
他人や社会に与える影響力のあり方が
変化していく。

シリーズとしては「オリジナル」がめちゃくちゃ濃い世界観を提示し、
「2」がその前日談、後日談を描くことで深堀し、
いったんここで過不足なく完結していると思います。
では「最終章」は蛇足なのかと言われるとそうではない。
「2」でさらに明確になった世界観の余韻を楽しむような、そんな作品です。スピンオフと言っても良いかもしれません。

相変わらずマイケルの妹がトリックスター的な存在感を出しているのですが、
さらにマイケルの娘役のソフィア・コッポラの色んな意味での「抜け」感が「最終章」の緊張感を緩和しています。

オペラをやっている知り合いに聞いた話ですが、
イタリアにおいて自分の一族からプロのオペラ歌手が出ることは一族の誇りであって、その人間が一人前になる為に一族は援助を惜しまないという。場合によっては地域を上げて応援する。
絶対音感や声帯だけでなく、骨格やビジュアルにも恵まれていないとその地位にはつけないから「神の恵み」と認識されているそうです。
美しい話だと思います。

マイケルの息子がファミリービジネスを継がずにオペラ歌手として評価される、そのハレの舞台をファミリー全員で観劇するというのはイタリア人にとって最高の「ほまれ」の象徴として受け取りました。
マイケルは非合法から抜けて、財団を通した慈善事業などでまっとうな道に進もうとし、そして息子はオペラ歌手になった、しかし、というこの業の深さですな。

この3部作を3週連続で上映してくれた目黒シネマ、
「仁義なき戦いとゴッドファーザーのシリーズはシアターで見た方が良いよ」とアドバイスをくださった新宿ゴールデン街の先輩方には
感謝感謝です。
シアターでの上映を待って良かった。
とてもとても豊かな映画体験となりました。