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ニューオーダーのinazumaのレビュー・感想・評価

ニューオーダー(2020年製作の映画)
4.5
また嫌な映画と出会ってしまった。
先日同じ感想を持った『哭悲』がまだカワイく見えてしまうという大事件。ジャンルは全く違いますが、変貌を遂げる日常と人々、救いようのない最悪の物語という点では共通しています。ただ本作の場合はウイルス感染などにより突如として日常が狂ったのではなく、元から狂っているというのが、最悪を通り越して超最悪、超超最悪。

本作は現実をフィクション風にみせてるだけのように見えます。現実では絶対に起こって欲しくないことを安全圏から眺めるのが映画の醍醐味だなんていいますが、この構図そのものを根底からひっくり返されました。痛いところを突いてきます。でも皮肉なことに映画としてめちゃくちゃ面白い演出、構成になっちゃってるのも事実。冒頭、押し寄せる緑色の水や、木肌が異様に赤い木、謎の絵画など不穏な要素が次々映し出されて、これから一体何を見せられるのか恐怖すると同時に好奇心がかき立てられました。最初に主人公のお母さんが異変に気付く場面もうまくて、何気なく水道水を出すと緑色の水が出てくるのですが、大きいリアクションも取らずに、咄嗟に水道を止めてしばらく停止状態になって部屋を出て行くというすごく自然な演出、演技。余計な音の演出も皆無で、得体の知れない何かが水面下で動いていることをスマートに示唆できていました。そしてその異変が真の姿をあらわすとき、それに気付くのがお父さんという、対比的な構造になってるのも素晴らしいし、この"気付く"場面がいちばんゾッとしました。ここはカメラワークの功績でしょうか。

この映画の脅威はなんなのか、こちらの期待は良い意味でも悪い意味でも大きく裏切られます。現実の脅威をあたかも怪物や未確認生命体であるかのように示唆する序盤の演出がとても効いています。

主人公が陥る地獄が何層にもなってるのが絶望的すぎる。一件落着かと思ったらすぐに意表を突いてきて、またすぐさま地獄へ突き落とされる。見てるこっちも驚愕して恐怖して溜息連発…これを繰り返し、そのまま物語は終わります。
酷すぎる。

学校かなんかの大きな建物の前で大量の死体が広がっているシーンで、死んでいるかと思いきや僅かに息があり、ピクリと動く子供がいて、その子に銃弾を撃ち込む兵士がいました。あれは、これ以上苦しまぬように一思いに撃ったのか、そうでない理由で撃ったのか。画面の片隅の小さな一瞬のシーンですが、この世界に僅かにも希望があるのかそれとも絶望しかないのかこちらを悩ます仕掛けになってて、やっぱり映画としてとてもよくできています。ただもう二度と観ることはないでしょう。
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