KnightsofOdessa

Driveways(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Driveways(原題)(2019年製作の映画)
4.0
[理解者を得た少年の成長記] 80点

亡くなった姉エイプリルの家を整理するためにニューヨークの郊外にやって来たキャシーとその息子コーディ。家主を失って間もないゴミ屋敷は、12歳も年上で大人になってからも疎遠だった姉妹の会わなかった時間を穴埋めする役割だけは担ってくれる。そして、コーディもまたその家を通して地域の住民、特に隣人の退役軍人デルと友情を深めていく。本来の企画は白人母子の物語だったが、韓国系アメリカ人である監督によって改変されたことで、普遍的な物語に新たな側面が加わることになる。明白に敵対する人物はいないものの、比較的裕福な住宅街に暮らしているメキシコ系の家族や白人の家族、そしてアジア系(エイプリル)の住民は少なからず断絶されていて、最も象徴的な"(私は)人種差別主義者ってわけじゃないんだけど、メキシコ人ってパーティばっかやってるし、子沢山じゃない?"という白人女性のセリフがそれら断絶を総括してくれる。しかし、デルは白人ながら"君はアジア系だろ?"なんて言葉は一言も発さない。それは彼の友人たちも同様だ。

中心となるコーディは繊細な子供で、同年代となれば暴力的な悪ガキは勿論、友好的な子どもたちに対しても身構えてしまう。しかし、デルとの交流はコーディを少しずつだが確実に変化させていく。キャシーは常に何かにイライラしていて、看護師になる勉強(?)を空き時間にやっているので親子の会話は途切れがちである。それでいて、やはり母親として息子の行動を多少制限してしまう部分もあって、双方が双方に譲り合うような形で人間関係がそれほど展開されてこなかったのだろうことは想像に難くない。だからこそ、デルがコーディの求めていた"理解者"になることで、彼は自身を変化させることを肯定される。それは同時にキャシーの成長にも繋がり、デルをも成長させてしまうのが本作品の美しい部分である。

コーディとデルの師弟関係は一方的ではない。デルには遠方で暮らすレズビアンの娘リサが居て、仕事漬けで顧みなかった妻ヴェラが居た。デルはコーディとのふれあいを通して、彼女たちにしてしまったことを振り返り、コーディには自分とは別の道を歩んで欲しいことを伝える。それは世代を超えた友情の証でもあり、それを語り合う背中を捉えたショットには目頭が熱くなる。

時折、キャシーが一人でバーで呑んだり、デルが退役軍人仲間の認知症に気付いたりという大人だけの世界を描写するのは、決して甘くない現実を見せられているようで非常に切ない気分にさせられる。そういったメリハリこそが、本作品を特異なものにしているのかもしれない。
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa