椿本力三郎

カモン カモンの椿本力三郎のレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
4.4
予告編ではもっとわかりやすく感動し、泣かせに入ってくるのかと思っていましたが、ボヤっとした作品で、どこに焦点を当てて良いかしばらく迷走しました。
「兄と妹の関係性、その崩壊と再生」こそがこの作品の主軸にあり、
そこに焦点を当ててからクリアに受け取ることができました。

そして、私はこの映画のメッセージを以下のように受け取りました。
「よくある日常も、それぞれの人生はいつも劇的であるということ」
「人間は多様であり、それぞれのキャパシティがある。抱えられるストレスの大きさとその種類はキャパシティに応じて違う。違って良いし、キャパを超えたときは他人に頼れば良い」
「助けている人は実は助けられている」

作品中の兄と妹には、2回、危機が現れます。
1度目は痴ほう症の母の介護とその死、
2度目は妹の夫の入院。
いずれも現代を生きる大人は
いつでも直面する可能性のある危機です。
1度目の危機で上手く協力できず、共感し合えなかった兄と妹は、
そこで距離ができてしまう。
しかし、2度目の危機は妹のキャパを完全に超えてしまい、
1度目の危機で生じたわだかまりを超えて兄にヘルプを頼む。
家族も子供も持たない兄は、
妹の9歳の息子を一時的に預かるが
そこで生じる葛藤を通して兄も成長し、変化していく。

兄は「子供の声を丁寧に拾い、社会や未来を語らせる」ことを仕事にしているが
9歳の自分の甥っ子とのコミュニケーションについては、
近すぎたり、遠すぎたり、さらに強弱を間違えたりする。
仕事として接することと
家族として(しかも伯父と甥っ子という間合いで)接することは
根本的に違うことを示唆している。
家族のコミュニケーションほど難しいものはない。

ホアキン・フェニックス、「ジョーカー」とは別人だった。
子役は前評判通りで、イノセントさと子供ゆえの残酷さを見事に演じていた。