椿本力三郎

バーナデット ママは行方不明の椿本力三郎のレビュー・感想・評価

4.5
家族とキャリアの両立に取り組む女性に響く作品だと思う。
大きなトラブルが無くてもいったん立ち止まるべき時期は必ず訪れる。
もちろんそれは男性にも。

娘の同級生のママ友でもある隣人との間で発生する、
ありがちな「ご近所トラブル」について
まずは比較的軽いコメディタッチで描かれる。
しかし、このトラブルについて、
ケイト・ブランシェット演じる主人公バーナデット側に原因があることが徐々に明らかになっていき、
メンタルカウンセラーによる介入以降、ストーリーは一気に転調する。

序盤からバーナデットは何かを抑圧しながら、
そして抑圧している現実から目を背けながら、逃げながら、
「今ここ」の生活に適応していることは暗示されているものの、
その抑圧のマグニチュードについては当初の予想をはるかに超えたものであった。

自分と家族の再生。

そもそも「自分を見失っていた」ことに気づくことからスタートして。
ちょうど一人娘が高校進学で家を離れるタイミングと重なるが、
作中でサラッと明らかにされる「一人娘」である理由にも人生を感じさせた。

関係の結び直しは、
すべてのライフイベントにおいて必要なことであり、
一度、そこで立ち止まることは
自分の為にも家族や周囲の大切な人間関係の為にも必須であると思わされた。
その際に、海外旅行はとても良い「非日常」の機会と言える。

バーナデットは若くして脚光を浴びた天才建築家であった。
その苦悩と再生は、
やはり、建築家らしく建物を通したトラブルとして発現し、
そして建築を通して癒されていく。
南極での基地の建築という非日常の極みは、
この天才建築家の「天才性」のスケールの大きさを象徴するものであろう。
またバーナデットが日常から逃げ出す為に
トイレの窓から外に出て南極に向かったというエピソードも、
思い返すと非常に象徴的な行為といえる。

この作品もシンディ・ローパーのTime after Timeの使い方が上手い。
そしてこれからはケイト・ブランシェット出演作という理由だけで
映画館に行こう、そう思わされた。
TARとは別人だった。この振れ幅に役者としての狂気すら感じる。