ガンビー教授

1917 命をかけた伝令のガンビー教授のレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
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疑似ワンカットがそれだけでは別に映画史を塗り替えたりはしないということはもともと知っているつもり。サム・メンデスというよりロジャー・ディーキンスの新作というつもりで見にいく。その意味では結構楽しんだ。

エンドロール、いろいろ考えながら余韻に浸っていたら音楽が盛り上げに盛り上げているところで画面に現れたスタッフ名「サム”ジュラシック”ニール」に苦笑してしまった(同姓同名であだ名をつけられている人だろうか……)。

特に前半、「ひと気がない」という戦地描写に意外な新鮮さがあった。ワンカットによって見渡す限りどこまでも延々と「死と暴力のにおいが漂う、生き物が死に絶えた土地」が広がっているような印象がある。作品全体で一番好きなのはここかもしれない。ここからフランス人女性と邂逅するシーンまで含めて、常にそこはかとなく死と暴力のにおいが漂い続けるタルコフスキー映画のような気配すらある。
またグラフィカルな鮮やかささえある「煌々と照った夜の戦地」の場面なども新鮮。見せ場は全編を通じて用意されている。

ある時点から、チェリーの花びらにとある(死んだ)人物のイメージが重ねられる。主人公が泣きながら川より這いずり上がってきて、そして川越しに散っている花びらを見る場面……もちろん人工的に作られた映像に決まっているが、いかにも自然ですよと言わんばかりに風にそよぎつつ散る花びら(ピントはボケている)、それとは裏腹に自然さを装うほどに際立つ人工性、重ねられた死者のイメージ、「彼岸」というロケーションなどが組み合わされ、黒沢清映画の幽霊を見るときのような奇妙な違和感が画面に定着していた。変な感じはしたが不快ではなかった。(作り手の意図とはズレているかもしれないが)面白い。

1917、塚本晋也の「野火」と比べると全然、といったような感想をツイッターで見かけた。まあ志向するところが実は全然違う作品なのだと思う。戦争そのものを描こうとしているのか、戦争という以上で極限的な状況設定を利用して描きたいものがあるのか。たぶん1917は後者だし、それにこの映画、割と早い時点から「ああ、じゃあこいつもうこれ以降ぜったい死なないよね?」と分かってしまうので本質的にはハラハラしない。それが悪いってわけではないのだろうが。

レヴェナントとかにも似たようなことを思うところではあるが、映画の中の「ドラマ」要素と「非ドラマ的」要素との結びつきに甘さを感じる。スペクタクルとドラマの協調ならゼメキスのマリアンヌとかのほうがよっぽど良い。1917に関しては前半は好きだが、クライマックスから幕切れに至るまでのパートが映画全体から浮いてるようにさえ感じられる。でもまあこのクライマックスがないと映画が終わらんので、無茶苦茶なことを言ってるのは自分でもよく分かっているけど、あそこまでドラマ性が強くなってくると「もう別にカット割らない理由とかないよね? 意地張らなくてもいいのでは?」とか思えてくる。

作品の主題そのものと作品を語る手法を完全に一致させながら、最後まで息を切らさずに(疑似)ワンカットを使いこなしてみせる映画監督、けっきょく今のところは白石晃士ぐらいなのでは……ということも改めて確認しつつ……

ワンカットの”リアル”、アンビエントな劇伴、顔の必然性が弱いキャスティング(!)とか含めてまあ、ある時代以降の今っぽい映画だよな、と。嫌いじゃないし、好きなシーンも少なくないけど、でもまあこれならダンケルクのほうが好きかな……
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