椿本力三郎

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーの椿本力三郎のレビュー・感想・評価

4.1
本作には、前作の「ブラックパンサー」で
その世界観やキャラクターのファンになった人をふるいにかけるような性質があるように思う。
すなわち、この本作で前作の世界観はさらに濃くなっているものの、
濃すぎて離れていくファンも一定以上いるであろう。
一方、さらにファンになる人もいるだろう。
私は後者であり、充分に堪能することができた。
音楽が相変わらずカッコ良くて映画館で見るべき作品である。

本作も王位継承と国家運営の難しさを描いている。
そもそも「国家とは、国家の強さとは何か?」という問いかけ。
特殊な資源を有することがワカンダという国家の地位を絶対的なものとし、国際社会において影響力を持つ。
アメリカやフランスといった超大国もワカンダの動向には注視せざるを得ない。
そして、国民の士気・結束力を背景とした軍事力も国家としての相対的な強さを創り出す要因となっている。
ここで「国民の士気・結束力」の強さに伝統が果たす役割の大きさについても考えさせられる。共通する物語があって初めて共同体は成立するのである。

また、本作では自身が研究者・科学者であり、王族の血統は尊重しつつも、非科学的な儀式や伝統を否定してきた王女シュリにフォーカスすることでテクノロジーが国家や国際関係に与える影響についても言及されている。

最終的にワカンダ(陸)とタロカン(海)は同盟関係を結ぶのも国際関係の王道を現わしているように思う。
タロカンの君主ネイモアは決して負けたわけではなく、
また、個人的な感情ゆえにシュリはネイモアを殺さなかったわけでもない。
国際関係のリアリズムをそこに見るべきである。
(映画的演出としてシュリとネイモアがお互い恋心を抱いていたのではないかという伏線も良かった)

さて、王女シュリが本作のサブタイトルでもある「ワカンダフォーエバー」と叫ぶシーンが終盤に登場する。
偉大な兄と母の喪失を超え、自らのこだわりも捨てる。
確かに個人的な怒りや復讐が出発点ではあったが、
最後の最後にワカンダの守護者・ブラックパンサーを引き受けたこと、
その覚悟を象徴するシーンとして「ワカンダフォーエバー」と叫んだのではないかと思い、グッと来た。

誰のためでもなく、ただ「ワカンダ」のために、という。
もうすでに次回作が楽しみだ。