虎の威を借る狐。
原題の"Hauptmann"とはドイツ語で陸軍・空軍の"大尉"の意味だけど、本作は珍しく邦題がいい仕事をしている。
ナチス・ドイツの敗色が濃厚となっていた第二次世界大戦末期。部隊を脱走した空軍上等兵ヘロルトは、乗り捨てられた軍用車両の中で空軍将校の軍服一式を発見する。偶然の成り行きと言葉巧みな嘘により、将校の威光を手に入れた若者の行く末とは—— 。
拾った軍服1着で、ここまで人が変わるとは…。
権力が従う者の思考を止め、残酷な処刑人へと変えていく。主人公ヘロルトが良心の呵責を感じる場面など、ただの1つもない。だからこそ恐ろしい。総統からの直轄命令という大義を振り翳せば、何でも罷り通ってしまう。
やがてエスカレートしていくヘロルトの言動が行き着く先は、脱走兵に対する大量殺戮。
この男。
誰にも止められない!!
色彩を抑えたフィルターが印象的。
それにしても、ヘロルトの肝の座りようには舌を巻く。前述の通り、良心の呵責を感じる事もなければ、「バレたらどうしよう」と焦るシーンもない。あ、最後の最後だけは自らの軍隊手帳を食べて証拠隠滅しようとしていたな…。
嘘を重ねる毎に、それを自らが真実だと信じ切っている。全てがバレてからの態度もある意味ご立派過ぎて辟易する。これで弱冠21歳だというから驚きである。
いや、何よりもこれが実話だって事。
こんな人物が実在したという事が凄い。
エンドロールでは、現代のドイツの街中で、傍若無人に市民を検閲するヘロルトらの姿が。最後のオマケとして、このブラックジョークはお見事。
人が持つ残酷な本性を、主人公に人間味を全く持たせない事で、冷ややかな客観性を持って訴えかけてくる作品。