Tラモーン

岬の兄妹のTラモーンのレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
4.0
成り行きでどぎつい邦画週間続きます。ずっと前から気になってたやつ。


地方の港町。造船所で働く良夫(松浦祐也)と妹で自閉症を抱える真理子(和田光沙)は2人で暮らしていた。時折失踪する真理子に手を焼く良夫だったが、そのとき彼女が町の男に身体を許し金銭を貰っていること知ってしまう。そんな折、足の障碍を理由に良夫は仕事をクビになってしまう。生活に困窮した良夫は罪悪感を持ちつつも、真理子に売春をさせて生活費を稼ごうと考える。


覚悟して観たつもりだったけどエグ過ぎた。つらすぎる。生々しすぎる。
主役2人の演技が体当たりすぎてドキュメンタリーを観ているのかと思うほど、リアルで苦しい作品だった。

自身も足に障碍を持ち、他に身寄りもなく、たった1人で自閉症の妹の面倒を見なければならない良夫の人生は壮絶なものだろう。本当は妹を思う心優しい兄なのだろうということは彼の行動の節々に散見される。それでも彼が自分の人生の重荷として真理子につらく当たってしまう気持ちは十分に理解できる。

"100万円?"
"違うっつってんだろ‼︎"

良夫はとにかく頭も要領も性格も悪い。短気で短絡的で卑怯者だ。男に声をかけて真理子を売るもなかなか上手くいかない。

"これで上手くいくぞ"

化粧のことなんざ、なんにも知らないだろうに真理子に口紅を塗らせ、意気揚々と売春相手を探しに町へ繰り出す。
水商売の縄張りも知らずチンピラに襲われ、やっと手にした稼ぎでマックのハンバーガーを貪り食う。
手書きのデリヘルチラシを町中のポストに投げ入れ立派な商売を気取る。

もう本当に良夫はどうしようもない男なのは事実。事実なんだけど、真理子を抱えてじゃあどう生きればいいんだと問われれば生半可な気持ちで助言などできないし、ましてや安易な気持ちで助けの手を差し伸べることなどできるだろうか。

彼がこんなことに手を染めるまでに至る人生がどんなものであったのか。それを想像させるに十分な松浦祐也の演技には圧倒される。

"だってしょうがないじゃん、俺足悪いんだから!"


真理子の「お仕事」を含めて正真正銘の体当たり演技を見せた和田光沙の役者魂も凄まじい。
抑圧されて生きてきた真理子にとっては、誰かに求められるということが、それがたとえ売春であったとしても生きる喜びだったのだろう。日常生活では障碍者にしか見えないのに、男と身体を重ねている最中の彼女は健常者と変わらないように見える。オーガズムに悦びを覚え、相手の身体を求める。「お仕事」を始めてからの彼女はどことなく生き生きしているようにすら見える。

そんな真理子を見て良夫はどんな気持ちだっただろうか。

しかし少し考えればわかること。真理子の身体に変化が起こってしまう。
さらに深いところまで堕ちていく2人。

"お前のせいでこうなったんだろうが"

元上司に怒鳴りつける良夫。その側に座り込む真理子。2人を突き放すようにサーっと引いていく低いカメラワークに諦めのような気持ちになった。

寝ている真理子の腹にコンクリートブロックを振り落とさんと構えた良夫が垣間見せる彼の優しさに胸が締め付けられる。

ラストシーンで岩場のうえで虚な表情をしていた真理子は自分が失ったものを理解していたんだろうか。そして良夫は電話になんと返事をしたのか。そうであって欲しいと思うし、世の中そんなに甘くないし人は簡単に変われないんだよなという諦めにも似た想像もできてしまう。希望があるといいな。


世界と言わず、日本のあちこちにこういう人たちがたくさんいるんだろうな。彼らがなんのために生き、どうやって生きているのか。貧困は正常な思考を奪うのか。

もう二度と観たくないけど、観る必要のある映画だった。
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