Tラモーン

成れの果てのTラモーンのレビュー・感想・評価

成れの果て(2021年製作の映画)
4.2
邦画ブームきてるので続けて前からクリップしてたやついきましょう。


東京で暮らす小夜(萩原みのり)の元へ姉のあすみ(柊瑠美)から婚約を知らせる電話がかかってくる。小夜は姉の幸せを喜び相手のことを尋ねるが、あすみは言いにくそうに言葉に詰まる。ようやく姉の口から出た婚約者が布施野(木口健太)であることが伝えられるが、小夜は怒りに震えたように口を噤む。布施野は8年前にある事件を起こしていた。


とんでもねぇ映画だった。
胸糞が悪いとか散々評判で聞いていて、正直あらすじから事件の内容とかはなんとなく想像できてしまっていた。
それでも事件そのものの内容以上に、それを取り巻く閉鎖的な田舎町での登場人物たちが抱えた鬱屈した闇や醜悪さがここまで生々しく表現されていることに衝撃を受けた。

冒頭、あすみの電話口から聞こえる小夜の過呼吸のような息づかい。そして一転して、ひとり橋の上で佇む小夜は修羅のような顔をしている。

不穏すぎる。引き込まれる。

平和な田舎町だったはずが、小夜が舞い戻ったことで一気に空気が不穏で満たされていく。カッと見開いた目でズバズバと攻撃的に啖呵を吐き、周囲を黒く塗り潰していく小夜。

もう本当に観ていてハラハラするし、キリキリする。怖い。
大きな目から涙を流しながら、顔面を歪めて迫る萩原みのりの圧倒的な迫力。
彼女に限らず舞台っぽさのある演技がこの作品にはしっくりきている。

人間て醜いな。みんな程度の差こそあれ自分がかわいいんだもんな。
それにしたって今井(花戸祐介)と絵里(秋山ゆずき)のカップルの醜さには吐き気を覚えた。あれは人の姿をした鬼だ。

事件の詳細には触れますまい。


"だったら私の目の前で不幸になってください。私より幸せになろうなんて絶対に許さない"
"本当に許さないよ、私"

観終わってみればこの作品はある種のファムファタールだったのか。
もちろん小夜は可哀想だし、布施野のやったことは許されない。だけど小夜の存在によって皆の醜さと汚さが暴かれ、田舎町の小さな人間関係は崩壊する。

廃屋で起こった一件で物語は終幕するかと思いきや最後の一捻りが凄まじいと同時に、どこか溜飲の下がるような思いがした。はじめからどうにも納得がいかなかったのだが、あすみの醜悪さが露わになったことで全てが繋がった。

エイゴ(後藤剛範)があすみに化粧を施しながら言った"素顔で生きるのってしんどくない?"が妙に印象に残る。


すんげー作品だった、本当。
萩原みのり凄いな。もう引退しちゃってるのか。あんなに怖いくらい迫力のある演技もっと観てみたいな。
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