にしやん

ドッグマンのにしやんのレビュー・感想・評価

ドッグマン(2018年製作の映画)
3.7
とある実話の殺人事件をベースに、イタリアの寂れた田舎街で犬のトリミングショップを開く一人の男が、心に抱えた闇とと不条理に対してもがく姿を描いたヒューマンサスペンスドラマやな。カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを2度獲ったイタリアのマッテオ・ガローネ監督の最新作や。

冒頭の、主人公が完全にビビってるシーンからして、この情けない主人公のダメダメ感が何とも言えんええ感じや。それに観終わった後に、ああ、この冒頭のシーンが映画全体を象徴するみたいなシーンやねんなということも分かるわ。こういうとこは流石やな。

映画のストーリーの軸は、かなり情けない感じのトリマーの主人公「ドッグマン」(店名でもある)と、街のトンデモ暴力ハードヤンキーとの奇妙な共存というか依存関係やな。問題としてめちゃめちゃ分かりやすいハードヤンキーは置いといて、この「ドッグマン」もどっか狂ってるように見えんるんがこの映画のおもろいとこや。ハードヤンキーが恐くて何も断られへんのや無しに、どっか友情みたいなもんもあって、それを端から観てる観客からしたら「こいつはこいつで救いようのないバカ」やと思てまうわな。確かにこの二人は必ずしも単純な主従関係だけやないということや。ハードヤンキーはハードヤンキーなりにホンマに「ドッグマン」を信頼してて、分け前を与えてるんかもしれへんねんけど、「ドッグマン」が被るかもしれへん実害の大きさが、情や分け前でカバーできるレベルやないんが、おもろいというか悲しいというか。

とにかく「ドッグマン」は毎回唐突にリスクとリターンが全然釣り合わない仕事をハードヤンキーにやらされんねん。毎回分け前もらえへん時のやるせない「ドッグマン」の顔が絶品や。中盤で起きる事件は殆ど限界超えてて、めちゃめちゃ酷い目に遭うねんけど、それでも普通でおるとこが、どっか普通やないわ。どう見ても不運そうで、間抜けで、残念感全開の主人公の、その一体何を考えてるんか分からんとこがサスペンスの要素としてしっかり活かされてるとこもええわ。全く無名の俳優にも関わらず、カンヌの主演男優賞獲るんも分かるわ。それよりこんなキャラを見つけた監督も凄いけどな。

それとこの映画、ロケーションが素晴らしいわ。世界が滅亡した後みたいな凄い場所や。殆ど廃墟やのに、そこにある生活感は廃墟とはちゃう。リアリティの設定として不思議なバランスや。舞台のトリミングショップの店構えもごっつ汚いねんけどその割にやたら繁盛してたり、他にもいろいろ店があって、主人公と町の仲間たちと廃墟の一角のレストランでランチをするシーンがあったり、トリミングショップの隣には金の買取の店まである。多分、廃墟からイメージされるどっかの閉ざされた空間、社会の闇みたいなもんをイメージしてるんとちゃうかな。

それまでは​どっかおかしいなあというレベルやった主人公が、後半は完全に壊れていくんがスリルたっぷりや。ハードヤンキーは自分が微塵も悪いと思てないところが凄い。なんでこいつ怒ってんねんって。逆に主人公は分け前を要求するだけという、この期に及んでまだハードヤンキーをどっか信じてるとこも凄い。わしから見たらどっちもどっちやな。狂ったもん同士の全く噛み合わへん滑稽さ、それこそ不条理さがシリアスなシーンにかて流れとって、それを終始冷めた目で客観的に描いてる。「ドッグマン」のタイトルかてなかなか趣深いな。余韻のある不条理劇や。
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