にしやん

フリーソロのにしやんのレビュー・感想・評価

フリーソロ(2018年製作の映画)
5.0
一言で言うて、リアルに映せば映すほど、現実味が逆に感じられへんようになる謎のドキュメンタリー映画やな。まず、わし、「フリークライミング」と「フリーソロクライミング」の違いを知らんかったわ。「登るための補助になる装備は使わへんけど、落下防止の安全装備を使う」んが、「フリークライミング」。「落下防止の安全装備自体使わへん」のが「フリーソロクライミング」や。

フリーソロクライミングについては全く何も知らんかったんで、経験と技術と気合でぶっつけ本番で崖を登るんかと思てたらちゃうかったわ。これ以上ないくらい入念な準備と予習をするねん。そら、失敗イコール死やさかい、できる限りその可能性やら危険性を検証していくんは、ある意味当たり前なんやろけど、ロープを付けた状態で足場や手の運びなど細部に至るまで絶対成功する方法が見つかるまで反復練習を繰り返すところが大変興味深かったわ。

主人公のアレックスさんがなかなか魅力的な人物や。純粋が突き抜けて狂気の沙汰やってタイプやな。命綱無しで崖を登る大胆さに反して、人柄はとても堅実で繊細や。本人も一か八かは絶対せえへんみたいやし、絶対登れるっちゅう気持ちになるまでは何年かかっても登らへん。恐怖に打ち勝てるんはできる準備を全部やってそれによって得られる自信だけや言うてるし、それでもアカン場合は引き返すからな。彼にとってはできるからやってるっちゅう、ただそれだけやということが見えてくるわ。

恋人や撮影スタッフとか、普通の人やったら気狂いそうなとこで戦っとう彼の側で支える人等の視点もごっつ良うて、彼の挑戦の絶対性の前に存在意義に苦しんでるわ。毎回帰ってこうへんかもしれへん恋人を待ち続けるのも大概やけど、何べんも回りくどく「辞めてえな」って頼んでも、彼は全く意に介さへんさかい、恋人を失う悲しみを覚悟で彼に寄り添ってんねん。撮影スタッフも同じように、撮影すること自体が彼のパフォーマンスの邪魔してる可能性に葛藤してる。彼らは親友が目の前で死ぬかもしれんという恐怖と常に戦ってるし、自分等の撮影のせいで親友を殺してまうかもしれへん恐怖を常に抱えてるわ。

誰もが「たとえ命綱あっても攻略は無理。」と絶望する程の難関コース、エルキャピタルっちゅう未踏の崖(知らんかった)を登りきるまでという映画としての基本構成も非常にようできてる。いや、ちょっとできすぎちゃうってとこもあって、ドキュメンタリっちゅうんを忘れてまいそうやった。BGMがちょっと大げさなんと、要素の殆どがインタビューやからちょっと単調かなという感じもしたけど、必要な情報や後から納得する感情やとかがちゃんと映画的に配置されてるさかい、クライマックスに向かってしっかりと積み重なっていってたんとちゃうかな。

クライマックスやけど、「このオッサンほんまにやってるわ」って、観てるもんが今自分の目の前で起きていることに対して自分の目を疑うような、スリルが延々続くねん。伏線回収もちゃんとできてる。それと、彼が現在生きてるんかをわし知らんかったもんやから「まさか失敗するとかないやろ?」とか、正直ちょっと不謹慎で縁起でもないことを感じながら観てしもたわ。ここまで観た感じではそういうことをやる作品ではないやろって雰囲気やし、まあ大丈夫やろと思いつつも、それでも生きた心地はせえへんかった。掴んだコブが取れたり、足を滑らせたり、重心が狂たりとかそれだけで生死に関わるような映像を今まで観たことがあれへんから、途中から興奮してええんか、怖がってええんかもよう分からんようになったわ。

まあ凄いもんが観られる映画やわ。観てるわしの寿命かて縮まるで。わし、ほんまなんでこんなドキュメンタリー見てるんやろ?
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