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幸福なラザロのncccoのレビュー・感想・評価

幸福なラザロ(2018年製作の映画)
3.8
うーん、これは、ものすごい映画を観てしまった。
深読みしようと思えばいくらでも深読みできるけど、私はラザロが神になったとか元から神様だったとかじゃなく、彼の善良さゆえにその願いが叶えられたんじゃないかと見た。

以下、ネタバレあり



中盤部に挿入される「聖人と狼」のフレーズの通り、「善人の匂い」を嗅ぎとった狼は聖人を食べずに生かす。
名前が示す通り蘇生したという風に見せかけて、実は「しばしの間生かされた」だけなんじゃないか、狼に。もしくは狼が彼の身体を借り、一体化していたのかも。狼が抜けたあとのラザロの遺体は、崖から落ちたそのままのように見えたから。

あのヘリコプターを見たときに、ラザロが願ったことー村人みんなの幸せ、そして「兄弟」であるタンクレディの幸せ。
ふいに現れた青年のままのラザロが不思議とすべての人を引き合わせ、村に還るきっかけを作る、友人に富を返そうとする。
一点の曇りもないラザロの願いが時空を超え叶う、しあわせが繋がっていく。そして、彼は聖歌の奏でを連れて、静かに去っていくのだ。

彼が涙したのは皆との別れを惜しんだからなのか、残り少ない自分の命を悟ったからなのか、ああわからない自分がもどかしい。

一人の愚鈍な青年を通して描かれる社会風刺であり、古典をベースにしたミステリーであり究極のファンタジー。観た後ずっと、じわじわ考えている。底なし沼のように奥行きの深い、怖ろしい作品。
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