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ありふれた悪事のbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

ありふれた悪事(2017年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

あまりに重すぎる内容で、韓国という国のヤバさをこれでもかと抉り出す作品。邦画やハリウッド映画のような甘さが全く無い。悪事に加担した主人公だけどラストには改心して告発してハッピーエンドだろう、等と高を括って観ていると本当に痛い目に遭う。

国家安全企画部室長と「傷つけないならば」という約束をして親友の記者の居場所を密告する主人公。この親友の記者は拷問にあった末、スパイに仕立て上げられあっさりと死んでしまう。彼が拷問を受けるときに震えて泣きながら呟く「誰も俺を倒せない、自ら倒れなければ」が辛すぎる。

そして親友の死にようやく立ち上がった主人公に対して行われたのは、妻と息子を含む全員へのガス暗殺。生き残った主人公が室長を殺さずに捕まえようとするが妨害に合いあっさり失敗。実は生きていた息子を脅しの材料に使われ、全ての罪を認める印を押すラスト。もうとにかく丸く収まりそうなところでちっとも収まらず、延々と主人公と我々の心を踏み潰してくる容赦の無さが凄い。

ただあまり全体の構成が上手くなく、特に前半は観続けるのが結構きつかった。このテーマなのにどうして序盤をあんなにコメディライクにしたのか。後半とのギャップをつけるためにしても、ドタバタ追走劇などあまりに不必要なシーンはノイズでしかない。これだけ重いテーマ(しかも実際の情勢)を描いているのだから、全編どっしりと骨太にまとめた方が良かったのではないだろうか。

それに終盤、これだけの目にあってこの期に及んで室長を殺さずに普通に逮捕して司法に委ねようとするのは意味がわからない。どう見ても司法は死んでいるし、すぐに釈放されるのなんかわかりきっている。

あと大変失礼だが個人的に主人公のソン・ヒョンジュの顔が苦手で(髪型のせいかも)、この顔のドアップを観続けるのも結構キツかった。演技は上手いとは思うが。

30年経ってようやく無罪が認められた主人公が「本来在るはずだった理想の家族」を思い描くラストシーンが辛すぎる。重たすぎてしばらく引きずりそうな映画。
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